19年間イチロー氏の練習パートナーを務めた藤本氏の今

[ 2020年1月28日 07:00 ]

兵庫県明石市内で「ピエンサ・ベースボールアカデミー」の代表を務める藤本博史氏
Photo By スポニチ

 昨年12月1日、イチロー氏(現マリナーズの会長付特別補佐兼インストラクター)が草野球デビューし、大きな話題を集めた。その試合が行われたほっともっとフィールド神戸で、懐かしい顔に会った。米独立リーグや台湾などでプレーし、オリックスにも在籍した藤本博史さん(43)。イチロー氏が率いる「KOBE CHIBEN」の一員であり、昨年3月に現役を引退したイチロー氏のオフの練習パートナーを01年から19年間も務めてきた。

 01年3月。捕手だった藤本さんは、マリナーズのキャンプ地であるアリゾナ州ピオリアでマイナーキャンプに参加していた。メジャーリーガーになる夢を叶えることはできなかったが、そこでメジャー1年目のイチロー氏と出会った。「昨日、イチローさんの家に呼んでもらいました」「弓子さんが大量の差し入れを届けてくれたんです」。19年前、目を輝かせながら、そう話していたことを思い出す。

 それが始まりだった。練習パートナーは、藤本さんが関西独立リーグで現役生活を終えた10年以降も続いた。打撃投手として、どんな寒い日でも1日200~300球を投げることもあった。イチロー氏がユニホームを脱いで迎えた初めてのオフ。生活リズムや心境の変化はあるのか、彼に聞いた。

 「草野球に向けても練習しましたし、そんなに生活の変化はないですね。ただ、気持ち的には、今まではイチローさんに投げるので、しっかり肩を作る必要がありました。寂しいですが、その点はなくなりましたね」と話す。

 現在は地元・兵庫の明石市で「ピエンサ・ベースボールアカデミー」という野球教室の代表を務め、主に小中学生の指導に当たっている。13年9月に開校し、基本コースは幼稚園、小学校低学年、高学年、中学生の4つで、野球を楽しみたい大人コースもある。「ピエンサ=Piensa」とは、スペイン語で「想像する。考える」の意。「僕はドミニカ共和国とかベネズエラの選手とも一緒に野球をしましたが、中には貧しい選手もいて、彼らはシンプルに家族のために野球をやっていた。彼らの口癖が“ピエンサ”でした。何のために野球をやるのか、どうすればうまくなるのか考える。そんな姿勢に感銘を受けたからです」。1期生は今は大学4年生。プロ野球選手はまだ輩出していないが、強豪校で甲子園に3度出場した卒業生もいる。今月からはスマートフォンなどで打撃フォームや投球フォームを撮影すれば、全国どこからでも技術的な指導が受けられる動画指導も始めた。

 イチロー氏から学んだことは指導にも生かされている。「技術面はもちろん、準備の大切さや、失敗した時のマインドの切り替えなど、数え切れないです」。教え子からプロ野球選手が誕生することを夢見る一方、それが全てではない。「子供たちの目標はそれぞれです。低学年の子ならうまくなって監督に褒められたいとか、単純に野球を楽しみたいとか。将来、社会に出ると理不尽なこともあると思うので、野球を通じて強い心を持ってほしい。その手助けができればうれしいです」。練習パートナーとしての生活は一区切りを迎えたが、イチロー氏との19年間は、藤本さんにとって、かけがえのない財産となっている。(記者コラム・甘利 陽一)

続きを表示

この記事のフォト

2020年1月28日のニュース