金足農・吉田 5回12失点…今夏11戦1517球力尽く「もう俺は投げられない」

[ 2018年8月22日 05:30 ]

第100回全国高校野球選手権記念大会最終日・決勝   金足農2―13大阪桐蔭 ( 2018年8月21日    甲子園 )

<大阪桐蔭・金足農>優勝を逃し、必死に涙をこらえる金足農・吉田(撮影・北條 貴史)
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 史上2度目の春夏連覇をかけた大阪桐蔭(北大阪)と、東北勢初優勝を目指した金足農(秋田)の決勝は13―2で大阪桐蔭が制した。金足農は秋田大会から10試合連続完投してきた吉田輝星(こうせい)投手(3年)が12安打12失点で5回降板。この日132球、今夏通算1517球で力尽きた。大旗の「白河の関越え」は持ち越されたが、公立農業高の躍進は秋田に、東北に、全国に感動を運んだ。

 試合終了と同時に、吉田の頬を涙が伝った。満員のアルプス席に向かう時は、号泣だった。「最後まで投げて勝ちたかった。スタンドの応援や地元の声援に応えたかった」。経験のない2桁12失点。連戦の疲れは「投げる前からあった」という。「でも、こういう状態が自分の力。完敗です」と肩を震わせた。

 1―3で迎えた4回だ。足が悲鳴を上げた。「踏ん張りが利かず、思い通りに投げられなくなった」。1死一、二塁から宮崎に140キロ直球を左翼席に運ばれた。さらに5回、疲労はピークに。無死一塁で根尾の2ランを浴び、人生初の1試合2被弾。さらに2点を失うと二塁・菅原天に言った。「もう俺は投げられない」――。

 部屋にはプロ野球選手のグッズを一切置かない。「自分より凄い選手がいるのが嫌だから」という理由だ。中学時代にバッテリーを組んだ小野滉翔さん(秋田南3年)は「他のチームに凄い選手がいても絶対に凄いと言わない。ゲームも勝つまでやめさせてくれなかった」という。そんな筋金入りの負けず嫌いが、初めて弱い言葉を吐いた。

 5回の守備が終わると主将の佐々木大夢、菅原天と3人で中泉一豊監督の元へ。「代えてください」と伝えた。6回、右翼の守備位置へ向かう際、2番手の打川に「俺はもう無理だから、任せた」と思いを託した。そして、打川の力になろうと、ストライクを入れるたびに拍手を送った。

 3失点した初回。それでも最速147キロを出し、無死一、三塁から強打の中川、藤原から奪った三振は鮮やかだった。07年優勝の佐賀北以来となる公立高の決勝進出を成し遂げた、その右腕。あまりの球威に、捕手の菊地亮は2試合に1度はミットのポケットの紐(ひも)を替える。その紐も普通より2ミリ太い特注品。今大会で奪った62三振は歴代6位となった。

 春夏通算12度目の東北勢の決勝戦。1915年の第1回大会準優勝だった秋田中の挑戦から固く閉ざされた「白河の関」はまたも開かなかった。それでも、その秋田中以来103年ぶりの県勢のファイナル進出は大きな感動を与えた。「甲子園は自分たちを強くしてくれた。いつかプロでリベンジしたい」。東北の夢を背負った右腕は、未来にもっともっと輝けるはずだ。(武田 勇美)

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