石川さゆり デビュー51年目の最高音質アルバム 「いろんな世界に飛んでいきたい」

[ 2023年3月23日 08:00 ]

都内のスタジオで試聴会を開いた内沼映二氏と石川さゆり
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 【牧 元一の孤人焦点】歌手・石川さゆり(65)の50周年記念アルバム「Transcend」発売記念試聴会が22日、都内のスタジオで行われた。ヒット曲「津軽海峡・冬景色」「天城越え」など計6曲を再編曲して歌い直し、現在の最高音質で録音した作品。レコーディング界の巨匠・内沼映二氏(78)がサウンドプロデューサー、斎藤ネコ氏(63)が音楽プロデューサーを務めた。

 スタジオのスピーカーから流れて来た音は迫力を持ちつつ微細で濃密。目を閉じて聴けば、自分のすぐ近くでオーケストラ、ビッグバンドが演奏し、それに合わせて石川が歌っているかのような錯覚にとらわれる。

 石川は「内沼さんの音はまるで魔法がかかっているようです。録音の時、内沼さんはまずマイクから選んでくれます。人間なので日によって声が違いますが、その時の声によってマイクを変えてくれるんです。内沼さんがミキシングしてくれると、自分でも思いがけない声が出ます。歌い手には自分が思い描く音楽の絵があります。録音の時、スタジオで自分に耳に戻ってくる音が違うと、バランスが崩れて違う絵になってしまいます。内沼さんが音を作ってくれると、景色が深まり、自分がより自由に飛べます」と語る。

 内沼氏は「さゆりさんの声が好きです。日本人としては珍しく倍音が適度に良い感じにあります。伸びた時の歌の感じがゾクッとします。録音の時は、さゆりさんの歌の良いところを録ろうという意識があるので、なるべく良いところを出してもらえるように心がけています」と説明する。

 録音は、オーケストラやビッグバンドがまず演奏し、その音源に合わせて石川が歌う形式ではなく、スタジオ内で演奏と歌唱を同時に行う形式だった。

 内沼氏は「さゆりさんはミュージシャンと一緒に歌うと、気持ちが高揚していくのが分かります。後でスタジオで歌だけ録音したものとは高揚度が全く違います。同時録音の空気感が絶品です」と話す。

 石川は「ドキドキしながら歌うのと冷静にうまく歌おうとするのは違います。私は自分の頭と心の波動のままに声を出すタイプの歌い手なんです」と笑う。

 このアルバムには実際にライブを聴いているような臨場感がある。まるで石川が自分の至近距離で歌ってくれているかのようで、アカペラの部分がある「風の盆恋歌」では歌の途中の息継ぎまでよく聞こえたりもする。

 石川は「このアルバムの音を聴くと、普通の作品以上にレコーディングの時のことを細かく思い出せます。この音が出た時に私はこんなことを思った、こんな絵が見えた、この楽器のこの音を頼りに私は次の言葉をつかんだ…。自分の歌の進み具合が見えます。斎藤ネコさんと私、演奏している人たちと私の関係を感じます」と話す。

 1973年3月に「かくれんぼ」で歌手デビューしてから50周年。代表曲を再編曲で歌い直し、最高音質で収めた今回のアルバムは51年目の第一歩でもある。

 内沼氏は「これだけいろんなジャンルを歌える人はほかにいません。もっと違うところに行ってみたい気がします」と今後の活動にも期待する。

 石川は「いろんな世界に飛んでいきたいです。ステージではバナナのたたき売りもしたことがありますが、まだやっていないことがいっぱいあります。音楽、歌は自由です」とさらに遠くまで行くことを願う。

 暖かい春が訪れ、これから熱い夏を迎えることになる。

 ◆牧 元一(まき・もとかず) 編集局総合コンテンツ部専門委員。テレビやラジオ、映画、音楽などを担当。

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2023年3月23日のニュース