羽生九段に急戦対策あれば矢倉採用も 谷川17世名人が王将戦「佐賀決戦」展望

[ 2023年3月11日 05:20 ]

王将戦7番勝負を読む 谷川浩司17世名人EYE

揮毫(きごう)する羽生九段
Photo By スポニチ

 藤井聡太王将(20)=竜王、王位、叡王、棋聖含む5冠=、羽生善治九段(52)による王将戦7番勝負は第5局を終え、藤井が3勝2敗と初防衛へ王手をかけた。王将4期の谷川浩司17世名人(60)が第5局を解説するとともに第6局を展望した。

 戦型選択は第1局から全て羽生が主導し、一手損角換わり、相掛かり、雁木(がんぎ)、角換わり腰掛け銀、横歩取りと進んだ。羽生が先手番で迎える第6局。「全局違う戦型で指さないといけない決まりはありません」と苦笑しながら、指摘したのが「矢倉が残っています」だった。

 「将棋の純文学」と言われたほどの主流戦法が近年採用数を減らしたのは、主に先手の急戦対策が未整備のためだ。一例が後手による右桂の活用。先手矢倉の重要パーツである7七銀を目がけて△7三桂~△6五桂と跳躍されると主導権を奪われる。「藤井王将は羽生九段次第。つまり羽生九段に急戦対策があれば、矢倉は十分考えられます」と語った。

 ここまでの5局で最も形勢が揺れ動いた第5局。直線的に攻める藤井に、曲線的にしのぐ羽生。2日目午後、「一度は決め損なっても立て直した、藤井王将の精神力を感じました」と評価したのが、81手目▲3五銀(第1図)だった。

 狙いは2六にいた遊び駒の活用だけではない。一見分かりづらいが▲4二銀成以下21手詰めの詰めろ。1日目から2日目昼食休憩明けまで優勢できたが77手目、1時間15分と長考した▲5三銀でリードを吐き出してしまう。直後、王頭への反撃を受け、動揺してもおかしくない局面で▲3五銀~▲4六銀の転回は、勇気のいる手渡しだった。

 「どんな手でこられても対応できるという読みの裏付けがないと、こうは指せません」

 感想戦で印象的なやりとりがあった。第1図で、藤井が△2九飛を気にしていたという。21手詰めの最後▲2六桂をこの飛車打ちで取れるため、詰めろが解除される。「他の手も全て読んだ上で△2九飛が一番困りそうと判断するには、最低数百手読まないといけない」とその読みの深さに改めて驚いた。

 「羽生九段はチャンスをものにできなかった。その点で悔いが残るかなと思います」。△5七銀からの王手竜取りの順に踏み込まず、自陣を固めた88手目△5一銀打が結果的に敗着になったからだ。

 第5局も先手が勝利し、藤井が先にシリーズ制覇へ王手をかけた。ただ、相手は史上最多99期を誇る羽生だ。「第6局の先手は羽生九段。切り替えていると思います」。7番勝負の結末はまだ見通せないとの見解だった。 (構成・筒崎 嘉一)

続きを表示

この記事のフォト

2023年3月11日のニュース