加藤一二三九段が語る「王将戦思い出の一局」「渡辺vs永瀬」…

[ 2021年2月13日 12:05 ]

加藤一二三九段
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 将棋の加藤一二三九段(81)が、今月販売を開始した王将戦記念誌「70年のあゆみ」に掲載しきれなかった王将戦の思い出のほか、今期の王将戦についての展望を語った。

 第28期(1978年年度)に初の王将位を獲得した加藤にとっての思い出の一局とは――。

 「当時は3大タイトル(名人、九段、王将)ということもあり、何とかして王将になりたいと思って一局一局精魂を込めて指していました。中でも記憶に残っているのは、昭和54年2月7・8日に行われた中原誠王将(当時)との第5局です。3勝1敗で迎えた対局で珍しく中原さんが中飛車にされたのですが、1日目の夕方、次の一手を指すのに困っていたんです。でも、“何かがあるだろう”という予感はしていたんです。その時にたまたま中原さんが席を外されて、相手の方に回って盤を見るというチャンスが生まれた次第なんです。そこでしばらく考えてみたところ、絶妙な手を発見したんです。これが“ひふみんアイ”の誕生の瞬間だったんです」

 結果、4度目の挑戦にして初の王将位奪取。

 「中原さんも意表を突く手で戦ってきましたが、私の攻めが上回って完璧勝利を収めることができ、4勝1敗で念願の王将のタイトルを獲得することができた1局でした」

 王将戦は、現行の8タイトルの中でも唯一スポーツ紙が主催しており、他棋戦とは違った雰囲気があるという。

 「4度目の挑戦の時には、スポニチが共同主催になったことで少し空気感が変わったというのも勝因のひとつのような気がしました。今でこそどの棋戦も非常に華やかな前夜祭を開催して頂いていますけども、王将戦では当時から開催地の市長さんや消防署長さんがいらっしゃったりして、非常ににぎやかな会が開かれていました。言葉で表現をするのは難しいけれど、地元の皆様とのふれあいから感銘を受けることもたくさんありましたね」

 加藤の王将獲得から42年の時を経て、第70期王将戦は渡辺明王将=名人、棋王との3冠=、永瀬拓矢王座と、令和の将棋界をけん引する両名が激突している。

 「今期の挑戦者決定リーグは史上最強のメンバー(広瀬章人八段、豊島将之竜王、藤井聡太2冠、羽生善治九段、永瀬王座、木村一基九段、佐藤天彦九段)でしたね。私は22歳の時からリーグに在籍していましたけど、私の目から見ても史上最強だったと思います。挑戦を受ける立場の“渡辺明”も強いですからね。渡辺さんのすごいところは、タイトルを持ってない時がない。初タイトルの竜王を獲得後、常に1つはタイトルを持っている。こんな棋士はなかなかユニークだと思いますよ。年齢も36歳で、まだまだ元気いっぱいですからね」

 しかし、その史上最強リーグを抜けた永瀬が3戦全敗のカド番に立たされている。きょうから東京都立川市で始まった第4局は、渡辺にとって防衛か、永瀬の反撃開始かの注目の一局となっている。
 「昨年、名人を獲得されて絶好調ですから(今期王将戦も)すんなり防衛という可能性もあります。でも、私は1回目の王将挑戦の時は1回も勝っていないんです。次の王将戦で1勝、3回目で2勝、4回目で王将のタイトルを獲得したんです。もちろん永瀬さんも一矢報いたいと思っていると思います。棋士は最後の最後まで勝負は捨てないものです。だから永瀬さんも頑張ると思いますよ」

 ◆加藤 一二三(かとう・ひふみ) 1940年(昭15)1月1日、福岡県稲築村(現嘉麻市)生まれ。54年に14歳7カ月で四段に昇段、当時のプロ入り最年少記録をつくる。69年、第7期十段戦で初タイトルを獲得。タイトルは名人、王将、十段、棋王など通算8期。00年、紫綬褒章受章。

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