イケメン落語家・瀧川鯉斗 「『入り口』の役目を果たしたい」

[ 2020年8月7日 13:00 ]

「お客さんに忠実に落語を伝えたい」と語る瀧川鯉斗
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 【牧 元一の孤人焦点】瀧川鯉斗の落語を浅草演芸ホールで聞いた。この日の演目は「荒大名の茶の湯」。戦国武将の加藤清正や福島正則らが慣れない茶の席で悪戦苦闘する噺(はなし)だ。

 途中に現代の福引の当たり玉や会食での会計の話などを盛り込み、落語初心者にも分かりやすい展開。茶の回し飲みで清正のヒゲが入ってしまい、みんなが飲むのを嫌がり、最後の正則が、茶の量が逆に増えていることに驚くまでのテンポ感が良く、楽しめた。

 浅草演芸ホールの松倉由幸社長は「以前は、どうなるかと思ってたけれど、見る見るうちに腕を上げて、噺が良くなった。将来が楽しみ。大器晩成だと思う」と指摘。その魅力に関して「何より、イケメンなのが武器。同じ噺をしても、女性を引きつける。モデルの仕事もしてるし、多方面からファンを連れて来てくれるのでは」と期待する。

 楽屋で本人に話を聞いた。出身地の名古屋から上京する前に暴走族の総長を務めていたことで知られる人だが、会ってみると、礼儀正しく、悪い圧迫感は全くない。

 「真打ちになって責任感が出ました。二つ目時代は冒険させてもらってましたが、今はお客さんに、正しく落語を伝えたいという思いがあります。あまり崩さず、筋を変えずにやりたい。自分で言うのも何ですが、分かりやすく正統派でやることが今の使命だと思ってます」

 現在、36歳。2005年に瀧川鯉昇に入門し、09年に二つ目、昨年5月に真打ちに昇進。もともと役者志望で上京したが、アルバイト先で「役者になるなら落語を聞いておいた方がいい」と勧められ、鯉昇の「芝浜」を聞いたその日に鯉昇に弟子入り志願した。

 「落語を聞いたのは、その時が初めてだったんです。圧巻でした。落語は1人で何役もやって瞬時に役を変えていく。そこに魅力を感じました。これまで役者として何回か舞台に出させて頂いたこともあるんですけど、表現者として、やはり落語家になって良かったと思います」

 メディアが発達した現代で、初めて聞いた落語で落語家を志すのは珍しいケース。春風亭小朝には「小さい針の穴に糸をすーっと通した入門の仕方」と言われ、自ら「新しいようで古いタイプの落語家」と称する。

 現在はテレビのバラエティー番組にも出演し、落語家としては異色のモデル業にも進出。独演会を開けば、観客は8対2で女性が多く、年齢層も20代半ばから40代半ばまでが中心で比較的若い。

 「落語の『入り口』の役目を果たしたいと思ってます。モデルの仕事も『寄席に来てほしい』という心持ちでやってます。落語は堅苦しいものではないので、映画館に好きな作品を見に行く感じで来て頂けたら」

 とても真摯(しんし)だ。この道に導いてくれた演目「芝浜」は「やりたいけれど、まだ怖くてやれない」。大器が晩成する日を待つことにしよう。

 ◆牧 元一(まき・もとかず)1963年、東京生まれ。編集局デジタル編集部専門委員。芸能取材歴約30年。現在は主にテレビやラジオを担当。

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