そう言えば10年前

[ 2019年1月26日 08:18 ]

 【我満晴朗のこう見えても新人類】2018年の紅白歌合戦で米津玄師の「Lemon」を視聴していた際、クライマックスの場面で思わず息をのんだ。あっこれ、大塚国際美術館じゃないか!

 現地に行ったことはないのに、なぜ気づいたかというと、2009年から11年にかけて、将棋のタイトル戦・王将戦の開幕局会場だったからだ。しかも舞台となった「システィーナ・ホール」まで同じ。過去の王将戦を語る上で欠かせない開催地なので、それとなく既視感があったわけだ。

 同ホールはバチカン市国にあるシスティーナ礼拝堂を忠実に立体再現している。ミケランジェロによる、かの有名な「最後の審判」は迫力十分。現地での対局経験を持つ某棋士によると「考慮中、絵画に視線を向けるでしょ? すると地獄に落ちる人物が目に入るんです」とのことだ。勝負を分ける一手をひねり出すには絶好の環境だったのかもしれない。いや逆に思考を乱されたのかも?

 ちなみに今期(第68期=2018年度)の王将戦は1月13、14日に開幕したばかり。会場の静岡県・掛川城二の丸茶室は12年から8年連続のオープナーだ。こちらは典型的な和室で、隣接する庭園からは掛川城の天守閣を見上げることが出来る。ちょっとした殿様気分を味わえるのが魅力だ。

 ところで、第1期(1951年)の開幕局はどこだったのか。第60期を記念して発行された「王将戦 60年のあゆみ」によると、同年12月11、12日に東京都赤坂の「比良野」で開催された、とある。早速ネット検索に掛けたところ、具体的なヒット項目はなかった。ということは、現存している施設ではない。東京都内の将棋会館内で過去の資料も当たってみたが、当時の資料は皆無に等しかった。

 なにしろ70年近い過去の話だ。升田幸三・八段が木村義雄名人(段位・肩書はいずれも当時)を下したという記録は残っているものの、対局場の詳細は闇の中。諦めかけていたら、筆者のメンターとも言うべき山村英樹記者(毎日新聞)が「これを調べてみれば?」と本棚の奥から引っ張り出してくれたのが「大山康晴全集」だった。

 なるほど! 「比良野」での王将戦開催はその後7回ある。1955年の第5期は5局全てで使用した。カードは大山康晴王将VS升田八段。「全集」の当該ページをたどると「赤坂の旅館・比良野」との記述を発見した。

 そうか旅館だったのか。ある意味想定内。タイトル戦は宿泊施設内で行われるケースが大半なのだからね。

 今期の第4局(2月24、25日)は沖縄県での初開催が決まっている。対局場は美術館でも旅館でもないが、南国ムード漂う中での熱戦を期待している。(専門委員)

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2019年1月26日のニュース