鈴木啓示氏が提言 阪神頂点への近道は充実先発陣のさらなる強化 最重要ポイントは手薄な左腕

[ 2021年11月12日 05:30 ]

鈴木啓示氏
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 【本紙評論家が振り返る矢野阪神3年目の「光と影(4)」】本紙評論家による連載「矢野阪神3年目の光と影」の第4回は鈴木啓示氏が今季の投手陣を総括した。投手陣全体の働きに及第点を与えた上で、来季に向けて、さらなる先発投手陣の強化を提言。今季中継ぎ起用された及川やドラフト2位・鈴木勇斗(創価大)、同3位・桐敷拓馬(新潟医療福祉大)の抜てきによる先発左腕の増強と、今季6勝9敗に終わった西勇の復活に期待を寄せた。

 今季の阪神投手陣は全体的によくやった。特に守護神スアレスの存在は大きかった。阪神が他球団より引き分けが少なかったのはスアレスがいたからだ。僅差のリードを必ずと言っていいほど守り切ってくれるため、追いつかれることがない。だから引き分けが少なかったのだ。先発陣も駒がそろい、13勝で最多勝、勝率第1位の2冠を獲得した青柳を筆頭に秋山、伊藤将が10勝、ガンケルも9勝と先発ローテーションを守った。結果的にチーム防御率はリーグ2位に終わったが、安定感はリーグ随一だった。

 ただ課題も残った。特に6勝9敗に終わった西勇は誤算だった。ベンチも先発ローテの柱として期待し、計算していた投手。その西勇で貯金できなかったのは痛かった。また、終盤に出てきた高橋は9月以降の優勝争いの中で7試合に登板して4勝と存在感を示したが、シーズン大半は戦力にならなかった。今の先発陣の中では最も「勝てる投手」だけに、いかにシーズンを通して起用できるかが来季以降の課題となる。

 改めて来季の優勝を目指す上で最重視すべきは、先発投手陣だ。その安定感が、チームの勝利に直結するからだ。今季も4月9日から同20日までの8連勝はすべて先発に勝ちが付き、粘り腰を発揮した10月もチーム12勝のうち10勝が先発の勝ち星だった。阪神躍進の時期は先発陣が好調だった期間に重なる。逆に、いくら鉄壁の救援陣を誇っても、先発が試合をつくれなければ宝の持ち腐れとなる。

 中でも、左腕強化をポイントに挙げる。今季、先発ローテを守った左腕は伊藤将のみ。最低でもあと1枚カードを増やしたい。高橋が有力候補だが、コンディション面を考慮すると計算に入れるのは少し怖い部分もある。今季は中継ぎ起用した及川に加え、ドラフト2位・鈴木、同3位・桐敷にも期待したい。

 西勇の存在も来季先発陣の「伸びしろ」と言えるだろう。あれだけの実績を持つ投手。今季の反省を生かしてオフに自身を磨くはずだ。西勇が「プラスアルファ」となるようなら、こんなに頼もしいことはない。阪神には「絶対的エース」はいないが、青柳、秋山、西勇、高橋らエース級の働きができる投手の頭数は他球団よりも多い。これは強みだ。12球団屈指の先発陣のさらなる強化が頂点への最大の近道と言える。

 今季はシーズン終盤からCSにかけ緊迫した試合の連続だった。最後には敗れたが、素晴らしい財産を手にしたと言える。負けられない戦いで味わった重圧は必ずや選手たちの財産、成長の糧となる。悔しさを原動力に、来季こそは頂点まで駆け上がってほしい。

 ○…西勇のシーズン6勝は、プロ初勝利を挙げた11年以降では17年の5勝に次ぐ低い数字。同年は8月に左手首骨折で離脱するアクシデントがあった。負け越し3つも16年の2つ(10勝12敗)を超える自己ワーストだ。今季は通算100勝が懸かった6月25日DeNA戦から6戦6敗するなど、夏場以降に調子が下降。五輪の中断期間を挟んだ8月以降でみても、9試合で2勝と振るわなかった。通算の月間防御率も8月が4.04でワースト。チームが苦しい時期に勝てる投球が求められる。

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