元NPB審判記者がフル装備で今秋ドラフト1位候補の中大・西舘をジャッジ!

[ 2023年3月1日 05:00 ]

ブルペンで力強い投球を見せる中大・西舘(撮影・木村 揚輔) 
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 1月にスタートした新企画「突撃!スポニチアンパイア」。11年から16年までNPB審判員を務めた柳内遼平記者(32)がフル装備で選手たちの成長や魅力をジャッジする。第2回は「超豊作年」とされる今秋ドラフトで1位候補に挙がる中大の最速155キロ右腕・西舘勇陽投手(20)。花巻東(岩手)出身でブルージェイズ・菊池雄星投手(31)、エンゼルス・大谷翔平投手(28)に続く同校3人目の「ドラ1指名」を狙う。 東都の怪物 必見のブルペン

 太陽がまぶしい中大グラウンド。審判道具に身を包み「打倒・西舘」に燃えた。直球の威力、変化球に切れがあるほど、完璧な判定へのハードルは高まる。西舘は昨秋の東都リーグ戦で9試合に登板し、防御率1・70で最多の5勝を挙げてベストナイン。63回2/3でリーグ最多の61三振を奪ったアマ球界を代表する右腕だが、元プロの名にかけて“誤審”は許されない。

 キャッチボールを終えた西舘が、一塁側ブルペンに入る。プレートに足をかけ「プレー!」の合図で戦闘開始だ。勝負は一瞬。セットポジションに入った西舘が、投球に入ったと思った次の瞬間、直球が低めに構えた捕手のミットに刺さった。クイックモーション。まるで剣道の突きのように速かった。構え遅れた私は低いと判断して「ボール!」。コールした後に「ストライクだ…」と後悔した。打者はいないが、低めいっぱいとされる高さ。捕手も「高さOKっす!」と西舘をフォローした。

 “誤審”の要因は2つ。

 「<1>走者がいなくても常に駆使するクイック」 始動から捕手が捕球するまで1・2秒が合格ラインとされるが西舘は手動計測ながら0・85~1・2秒の間で自在に使い分けて打者を幻惑する。私も見事にタイミングを外されてしまった。

 「<2>直球の強さ」 並の投手なら低めのボールゾーンに外れる軌道も、最速155キロの直球は本塁付近でも強さがあり、低めのストライクゾーンをかすめる。プロの1軍レベルの絶対条件となる「低めの強さ」は本物だった。

 変化球も光った。縦に鋭く落ちる「パワーカーブ」だ。プロでもカーブはリリースの瞬間に腕の緩みが分かる選手も多いが、腕の振りは直球と変わらず力強い。カーブが得意なソフトバンク・武田と重なった。「一番自信を持っている」と語るカットボールも、斜めに鋭く落ちる未体験の軌道。捕手に尋ねて初めて球種が分かった。

 3年秋のリーグ戦まで全て防御率1点台以下を記録している「東都の怪物」。プロでも即戦力となることは間違いないが、あえて「プロのゾーン」という課題を授けたい。何度も左右のコーナーを突いた西舘。私の判定に「取ってくれるかな?というところがボール。いつも(リーグ戦)より狭い」と首をひねった。ゾーンがアマより狭いプロでも、腕を振ってストライクが取れるかが、成功への鍵だ。

 ドラフト指名へ勝負の一年。花巻東3年夏の岩手大会決勝では、佐々木朗希(現ロッテ)が登板を回避した大船渡を下して優勝した。「昨年の完全試合もテレビで見ていた。“凄い”という言葉しか出ない」。プロの舞台で、「あの夏の決着」を実現させてほしい。(柳内 遼平)


 ◇西舘 勇陽(にしだて・ゆうひ)2002年(平14)3月11日生まれ、岩手県一戸町出身の20歳。一戸南小3年から一戸スポーツ少年団で野球を始め、一戸中では軟式野球部に所属。花巻東では1年夏からベンチ入りし、3度の甲子園出場に導く。中大では1年秋からベンチ入りし通算34試合で7勝4敗、9セーブ。防御率1・62。50メートル走6秒2。遠投100メートル。憧れの選手は菊池雄星、大谷翔平。1メートル85、79キロ。右投げ右打ち。

 ◇柳内 遼平(やなぎうち・りょうへい)1990年(平2)9月20日生まれ、福岡県福津市出身の32歳。光陵(福岡)では外野手としてプレー。四国IL審判員を経て11~16年にNPB審判員を務める。2軍戦では毎年100試合以上に出場、1軍初出場は15年9月28日のオリックス―楽天戦(京セラドーム)。16年限りで退職し、公務員を経て20年スポニチ入社。同年途中からアマチュア野球担当。

 ≪花巻東の後輩 麟太郎も1位候補≫花巻東の後輩となる佐々木麟太郎(2年)は、すでに日本ハム、西武がドラフト1位候補にリストアップしている。高校最多とされる早実・清宮(現日本ハム)の通算111本塁打に、早くもあと「5」に迫っている106本塁打の左の長距離砲で、守備では一塁に加え捕手や三塁、外野にも挑戦中。野手で「ドラ1」となれば同校では初となる。

 ≪清水監督が期待 WBCエースに≫20年は牧(DeNA)、五十幡(日本ハム)、21年は古賀(西武)、昨年は森下(阪神)、北村(ヤクルト)と次々にプロを輩出する中大・清水達也監督。花巻東時代の西舘を初めて見たのは3年春の東北大会で「球の強さ、体に瞬発力があった」と振り返る。肘の不安で3年春まで救援も先発に転向した同年秋はリーグ最多63回2/3を投げるなどドラフト1位候補に成長。「WBC代表でエースになれるような投手になってほしい」と期待した。

 【取材後記】7年のブランクを感じた。16年限りで日本野球機構(NPB)の審判職を退職して以来、試合でのジャッジはない。現役時代のように心は燃えていたが体が追いつかなかった。
 西舘の投球に「ストラ~イク!」と声を張り上げていると、5球目に喉の中が出血。生暖かい液体が喉を通る感覚が懐かしかった。喉をつぶすことを繰り返して球場でも通る「アンパイアボイス」をつくりあげたからだ。
 数日後、ソフトバンクの宮崎キャンプを取材。大関、石川、藤井ら一流投手が捕手のミットを鳴らす豪華なブルペンを見て確信した。「この中に入っても西舘はやれる」と。(アマチュア野球担当・柳内 遼平)

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