よしながふみ作品、なぜ実写化で人気?NHK「大奥」テレ東「きのう…」が“異例”同時期放送の理由

[ 2023年12月11日 10:02 ]

(上)テレビ東京「きのう何食べた?Season2」キービジュアル(C)テレビ東京 (下)NHKドラマ10「大奥 Season2」「幕末編」キービジュアル(C)NHK
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 “男女逆転の大奥”を描くNHKドラマ10「大奥 Season2」(火曜後10・00)は12日、15分拡大版でついに最終回(第21話、Season1から通算)を迎える。よしながふみ氏による同名人気漫画が原作。よしなが作品は、現在テレビ東京で「きのう何食べた?season2」(金曜深夜0時12分)も放送されている。「大奥」は2010年代にもTBSを中心として実写化されているが、各局がこぞって映像化する「よしなが作品」の魅力はどこにあるのか。番組プロデューサーや俳優の声を基に、その魅力をひも解いていく。(中村 綾佳)

 現在、NHKドラマ10で放送中の「大奥 Season2」は、今年1~3月放送の「Season1」(全10話)続編。よしながふみ氏の同名漫画「大奥」は過去計3度、ドラマ化&映画化されているが、NHKでは初めて幕末・大政奉還までが描かれる。

 また、テレビ東京で放送中の「きのう何食べた?season2」も、2019年に放送されたドラマの続編。こちらもよしながふみ氏の同名漫画が原作で、同棲中の同性カップルの日常を「食」を中心に描いた人間模様が大きな反響を呼んでいる。

 大ヒット漫画の実写化は、原作ファンから賛否さまざまな意見が上がるケースが多い。この2作品については、ともに高い評価を得て続編の放送に至っており、「人気漫画の実写化」の成功例といえる。

 多くの課題があるにも関わらず、よしながふみ氏の作品は実写化に引っ張りだこ。同作者による作品が同クールに複数放送されるのは非常に稀だ。

 21年には映画化もされた「きのう何食べた?」。主演の西島秀俊は、映画の完成披露試写会に登壇した際、よしなが作品について、“ゲイのカップル”の日常を通し、「家族」の愛情・絆が描かれていると語っている。

 また、NHKで「大奥」を「映像化したい」と声を上げたのは、同ドラマ総括を務める岡本幸江プロデューサーだった。岡江氏はスポニチアネックスの取材に対し「新型コロナの影響で、人々はみな非常に緊張感のある中で生活をしていた。そんな中、ドラマを見るときぐらいは日常の窮屈感みたいなものを忘れたい…というような気持ちがあった。ダイナミックで日常を忘れさせてくれるような大胆な構想のもので、でも、感動とか感情とかは絵空事じゃなく、ちゃんと共感できるもので…と考えたときに、浮かんだのが『大奥』でした」と語っている。

 岡江氏自身も、よしなが作品の大ファンだという。「時代劇という設定の一つのファンタジーの上に、『男女逆転』というもう一つのフィクション設定が乗っている、非常にフィクショナルな設定。しかし、今の日本社会や、日本だけじゃなく世界が抱えている問題や困難が、非常に面白く、魅力的な物語の中に描かれている。近代のわれわれに共通する問題や課題みたいなものが、凄くわかりやすく…現代の人が感じ取りやすく描かれている」と、その魅力を熱弁。また「人の心や気持ちなど、時代を超えた普遍性みたいなものも、同時に感じさせてくれる。社会の課題や困難と、物語的な感動。両方が同時に魅力的に描かれているのが、よしながふみさんの凄い発明といいますか、凄いお力だと思っています」と、よしながふみ氏の原作に流れるメッセージに衝撃を受けたと語っていた。

 また、「Season2」制作総括の藤並英樹チーフ・プロデューサー(CP)も原作のファンだと公言。「Season2」は、テレビ東京「きのう…」と同時期に放送されるとあり、よしなが作品の魅力について聞くと「よしながふみさんの作品は、どれも登場人物の日常や感情が、凄く丁寧に書かれている。キャラクターの生活や環境が際立って描かれ、凄く共感できるというのが魅力の一つ」と説明。「よしながさんは、凄く優しい人なんじゃないかな。人を見る優しい目線が、作品に現れていると思う。よしながさんのまなざしを通してみる登場人物に、とても共感できる」と、よしなが作品の魅力を熱弁した。

 「大奥 Season1、2」ともに脚本を手掛けたのは、2025年の大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」も担当する森下佳子氏。俳優から「神脚本」と称賛される森下氏自身も、よしなが作品の大ファンだと、自身の「note」(NHK広報局が配信)で明かしている。「note」の中で、森下氏は「初めてよしながふみさんのコミック『大奥』を読んだのは10年以上前のことでした。キャラクターひとりひとりに血肉が通っていて、まず、ヒューマンドラマとしてすばらしい。その上、ジャンルとしてはSF時代劇。それが要所要所はかなり史実とリンクする形でくくられている。とにかくものすごい離れ業が信じられない完成度でまとめあげられていることに驚きました」と記し、ヒューマンドラマとしての一面と、そしてSF、さらに時代劇…という複数の要素が盛り込まれているのにも関わらず、史実に逆らわず、そして共感できるストーリーという手腕を“ものすごい離れ業”と表現した。

 よしなが作品は、俳優陣からも人気が高い。「Season2」で13代将軍・徳川家定を支える聡明な老中・阿部正弘を演じた瀧内公美は、11月に開催されたファンミーティングの中で、よしなが作品について「男女が逆転したことによって、社会の問題や政治、女性蔑視の問題、そういったところを切り込んで、その問題を重ねて見ることが原作の面白さだなと思っていて」と語り、「よしながふみさんって、凄くリアリストな人なんだなって思った」と、作品から読み取れる“よしながふみ像”を明かしていた。

 「大奥」の象徴ともいえる、8代将軍・徳川吉宗を「Season1」で演じた冨永愛は、漫画について「多様性って言われていたり、ジェンダーの問題があったりとか、その今の時代に男女が逆転したヒューマンドラマ。その中で、逆転しているからこそ見えてくる問題、生きづらさ、葛藤、生きざまっていうのが面白いところ」と語っている。

 よしなが作品は「男女逆転」や「同性愛」など、ジェンダーを超えた愛、絆、そして多様な人生のあり方が描かれている。そして丁寧に描かれた生活の中で、「一人一人が『自分』という映画の主役」という月並みな言葉を、本当にその通りなのだと説得させ、日々を大切に生きていこうと思わせる力がある。それは、新型コロナ禍で希薄化してしまった人との関わり、絆、触れ合いの記憶を呼び起こさせ、あらゆる問題の「原点」に立ち戻らせる。複雑なこの現代を生きる中で、人々は、よしなが氏の作品に癒す力を求めたのかもしれない。

 「きのう何食べた?Season2」は15日に第11話が、「大奥 Season2」はあす12日にいよいよ最終回を迎える。2クールにわたって大反響を呼んできた2つの物語が、いよいよフィナーレを迎える。

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