【鎌倉殿の13人 秘話1】清水CP語る異例の試み 危機感からカメラマン外部招聘 悩み抜いた史実と創作

[ 2022年12月12日 09:01 ]

「鎌倉殿の13人」最終週インタビュー(1)制作統括・清水拓哉チーフ・プロデューサー

大河ドラマ「鎌倉殿の13人」第13話。初恋の人・八重(新垣結衣)に長年の想いを打ち明ける北条義時(小栗旬)(C)NHK
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 脚本・三谷幸喜氏(61)と主演・小栗旬(39)がタッグを組み、視聴者に驚きをもたらし続けたNHK大河ドラマ「鎌倉殿の13人」(日曜後8・00)は18日、ついに最終回(第48回)を迎える。最終週インタビュー第1回は制作統括の清水拓哉チーフ・プロデューサー(CP)。今作で新たに採り入れた数々の試みについて聞いた。

 <※以下、ネタバレ有>

 大河ドラマ61作目。タイトルの「鎌倉殿」とは、鎌倉幕府将軍のこと。主人公は鎌倉幕府2代執権・北条義時。鎌倉幕府初代将軍・源頼朝にすべてを学び、武士の世を盤石にした男。野心とは無縁だった若者は、いかにして武士の頂点に上り詰めたのか。最終回は、江戸幕府まで続く強固な武家政権樹立を決定づけた義時と朝廷の決戦「承久の乱」が描かれる。三谷氏は2004年「新選組!」、16年「真田丸」に続く6年ぶり3作目の大河脚本。小栗は大河出演8作目にして初主演に挑んだ。

 01年のNHK入局以来、清水CPが演出やプロデューサーとして大河ドラマに携わるのは実に7作目。大河を知り尽くした“ミスター大河”だ。「新選組!」は助監督として、「真田丸」はプロデューサー・演出(第48回、1話分)として“三谷大河”を支えた。

 今作における大河ドラマ異例の取り組みには、

 ・キャスト発表のSNSイベント化
 ・かまコメ(撮影直前・直後の音声コメント)
 ・ハラスメント防止の講習会「リスペクト・トレーニング」(大河初導入)
 ・タイトルバックの尺を例年より約1分短縮」
 ・第18回「壇ノ浦で舞った男」(5月8日)本編に「紀行」なし&“予習”先出し
 ・巨大LEDパネルを駆使した臨場感あふれるリアルタイム合成映像

 などがある。

 清水CPが特に手応えを感じたのは「ビジュアルディレクター」として映画カメラマン・神田創氏と戸田義久氏を外部から招聘したこと。配信全盛時代となり「海外ドラマや映画とパイを奪い合わないといけなくなりました。私たちは“ルック”という言い方をしますけど、映像面でも高品質なものを作っていかないと、視聴者の皆さんの選択肢から大河ドラマがポロポロ落ちてしまう、そういう危機感が凄くあったんです。(『探偵はBARにいる3』など)実際に映画を撮ってきた吉田照幸という監督がチーフ演出をするにあたって、お二人にも参加していただいて、新しい画作りにトライしてみよう、と」と狙いを説明した。

 しかも、今回はテレビドラマとしては珍しい「単焦点レンズ」を使用。その名の通り、焦点距離が1つしかなく、ズーム機能がない。「非常にキレのある映像」になるが、撮影側が構図などをしっかりイメージする必要があり、技量が試される。

 さらに「映画的なメリハリの利いた照明の手法」などのノウハウと「大河の技術チームが積み重ねてきた伝統」を融合。グレーディング(色彩調整)などのポストプロダクション(撮影後の作業)も、きめ細かく注力。“映像の説得力”が視聴者を没入感に導いた。

 「そのシーンの内容というものは、やっぱり画を通してビビッドに伝わってきます。何気なく見ているようでも、登場人物の心情やストーリー展開も、映像から強く訴え掛けられる。その意味で今回は、視聴者の皆さんを引き込むために映像が果たした役割はとてつもなく大きかったと思います」

 また「僕個人のチャレンジとしては」と断った上で、脚本作りにおける史実と創作のバランスについて「歴史学的には“ない”ということが定説化されていても、ドラマとして面白ければ採り入れてみる。そこは、かなり割り切りました。『大河の面白さはクラシックであること』と言ってきましたが、『長年愛されてきた定説』もあるわけで、その期間自体が『歴史』といってもいいものもあります。時代考証を丁寧にするのは前提ですが、慎重にさじ加減を考え、今回、『史実』に目をつぶる基準を自分の中ではだいぶ緩めました。大河の定番である戦国時代が舞台の『真田丸』と、取り上げられることの少ない平安鎌倉期を描く今作の違いです」と明かした。

 「一方、『吾妻鏡』などの史料に残っていることの再現じゃなく、ドラマとして一番面白く、一番劇的に描くにはどうすればいいか。史実からエッセンスをもらって再構築していくんだ、という姿勢も思い切って強めました。北条義時(小栗)が最初に妻になる八重(新垣結衣)に対して執着したのは『義時が姫の前(比奈・堀田真由)に対してラブレターを書き続けた』という有名なエピソードを彷彿させます。義時という人間トータルとしては、そういう気質があるわけで、単純に『史実』をなぞるんじゃなく、どのタイミングでどういうふうに盛り込めば面白くなるか。そう考えた結果です。時代によっても変わる歴史ドラマの描き方について本当に悩んだ数年間でした」

 歴史に造形の深い三谷氏とのタッグだからこその作劇。上総広常(佐藤浩市)の「手習いと祈願書」、平宗盛(小泉孝太郎)の「腰越状」代筆、日本三大仇討ちの一つ「曽我兄弟の仇討ち」(曽我事件)は「敵討ちを装った謀反ではなく、謀反を装った敵討ち」など、史実と創作を鮮やかにミックス。“神回”“三谷マジック”“神がかる新解釈”の連発に、歴史ファンからも唸る声が相次ぐ。

 源頼朝(大泉洋)亡き後の苛烈なパワーゲームも、史実というネタバレがありながら予測不能の展開の連続。最終回「報いの時」は一体、何が待ち受けるのか。

 <出色カメラワーク>第13回「幼なじみの絆」(4月3日)、視聴者の爆笑を誘った阿野全成(新納慎也)と文覚(市川猿之助)の“読経合戦”。正面から全成を捉え、寄ったり引いたりのカメラワークも出色。ビジュアルディレクター・神田創氏のアドリブだった。新納は今年7月のインタビューで「あんなふうに撮ってくださっていたなんて、出来上がった映像を見るまで知らなかったんです。凄いシーンになったと神田さんと称え合いました。各部署の遊び心あふれる職人たちが真面目に作り上げたシーンが話題になって、うれしかったですね」と語っている。

 =最終週インタビュー(2)に続く=

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