フェリーニ監督生誕100周年 映画「甘い生活」に描かれた人生の考え方

[ 2020年7月27日 12:30 ]

フェリーニ監督の映画「甘い生活」のDVDジャケット
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 【牧 元一の孤人焦点】今年はイタリアのフェデリコ・フェリーニ監督の生誕100周年。今月31日から東京・YEBISU GARDEN CINEMAで、代表作の数々の4Kデジタルリマスター版が上映される。

 代表作のひとつ「甘い生活」(1960年公開)をリバイバル上映で初めて見たのは約35年前、まだ大学生の頃だった。その時は全く感動した覚えがなく、先鋭的な作風だけが記憶に残った。

 それから約15年後、DVDで見直した時には身につまされる思いをした。自分が主人公と同じ新聞記者になっていて、通底するものを感じたからだ。

 マルチェロ・マストロヤンニが演じる主人公のマルチェロは作家志望だが、生計を立てるために新聞社でゴシップ記事を書いている。キリスト像がヘリコプターで運ばれる冒頭シーン。マルチェロはヘリで追い掛けて取材しているが、建物の屋上に水着姿の女性たちがいるのを目にすると、ヘリの上から電話番号を聞き出そうとする。なんとも軽薄だ。

 恋人がいるのに富豪の令嬢(アヌーク・エーメ)と浮名を流し、取材対象のハリウッド女優(アニタ・エクバーグ)にもちょっかいを出す。友人に触発されて何か書こうと試みるが、すぐに断念してしまう。いかんともしがたい。

 自分はこの主人公ほど快楽的でもなく破滅的でもない。しかし、人間的な軽さ、集中力の欠如、忍耐力のなさに相通じるものを感じる。定年近くになった今、この物語の成り行きも、ふに落ちる。まあ、そういう人生を送るだろう、と納得できる。

 これから初めて見る人にはネタバレになってしまうが、ラストが素晴らしい。マルチェロは仲間たちとのらんちき騒ぎの夜が明けた後、海辺で、遠くの方から少女に声を掛けられる。少女はタイプライターを打つしぐさをして見せる。マルチェロは作家を目指して何か書こうとしていた時、実はこの少女と出会っている。しかし、今はもう作家志望だったことすら忘れてしまっている様子だ。

 少女は、マルチェロが仲間たちと海辺から去って行く姿を見てほほえむ。その笑顔が明るく優しい。そう言えば、マルチェロはこの少女と出会った時、横顔を見て「教会の絵に描かれている天使に似ている」と話していた。つまり、少女が見せたのは、天使のほほえみ。映画はそのアップのシーンで終わる。

 一生のうちに何事かを成し遂げるのは難しい。でも、まあ、それでも良いのではないか。そもそも、この世界に、当初の目標を達成できる人がどれだけいるのか。だから、そんなに思い悩む必要もないだろう。少女の笑顔は、そう感じさせてくれる。若い頃には全く気づかなかったが、この映画には人生の考え方が描かれているのだと思う。

 天使のほほえみには、これから4Kデジタルリマスターの鮮明な映像で再会することができる。

 ◆牧 元一(まき・もとかず)1963年、東京生まれ。編集局デジタル編集部専門委員。芸能取材歴約30年。現在は主にテレビやラジオを担当。

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2020年7月27日のニュース