【内田雅也の追球】佐藤輝のしぐさに見た「真実」「本性」 希望を抱き、もう一度、再スタートしよう

[ 2024年6月16日 08:00 ]

交流戦   阪神2ー6ソフトバンク ( 2024年6月15日    みずほペイペイD )

4回、空振り三振に倒れた佐藤輝
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 4点差の9回表、2死一、二塁、阪神最後の打者となる森下翔太が凡飛に倒れたとき、佐藤輝明は次打者席にいた。もし、打席が回れば走者がどうであれ、一発同点の状況だった。 試合結果

 ずいぶんと夢見がちな妄想だが、そんな希望を抱きながら見るのが野球ファンである。たとえ打率2割そこそこ、3本塁打の4番でも思うのだ。

 いや、そんな思いすらなくなったらおしまいだろう。選手も同じはずである。彼らは最後まであきらめず、勝利への希望を捨てずに戦っている。そう信じている。敗戦を見届けると佐藤輝は静かに引き上げた。

 試合内容は完敗に近かった。近本光司を13試合ぶりに1番に戻し、4番には2カ月ぶりに佐藤輝を入れたオーダーも2点だけでは機能したとは言いづらい。交流戦16試合で32得点。文字通りの「2点打線」なのだ。

 どうも思いが空転している。佐藤輝を見てみたい。4回表1死、外角高め速球に空振り三振を喫すると顔をゆがめた。ベンチに帰る際、手にしたバットを振り下ろすようなしぐさを見せた。

 悔しさがにじみ出ていた。監督・岡田彰布が5月15日に2軍行きを命じた際、打撃不振や拙守とともに理由にあげていたのが「態度」だった。「打てなくても守れなくても平気な顔でいる」とも話していた。

 長い野球記者生活で、これ見よがしのわざとらしい演技は見透かせる。あの佐藤輝は悔しい心の叫びが表に出ていた。

 19世紀米国の女性詩人エミリー・ディキンソンは「わたしは苦悩の表情が好き。なぜなら、それが真実の表情だから」と書いた。似たようなことを野村克也も書いている。著書『弱者が勝者となるために――ノムダス』(ニッポン放送プロジェクト)で<人間は窮地に追い込まれるほど本性が現れる>とある。

 窮地で見せた佐藤輝の立ち居振る舞い、しぐさにディキンソンの言う「真実」や野村の言う「本性」を見た思いがする。そしてそれは、チーム全体の思いである。

 だから打った、などと安易に見てはいない。ただ、0―6となった直後の6回表、佐藤輝の二塁打から1点を返した。

 再び貯金を使い果たし4位にも落ちた。もう一度、再スタート。もう一度、開幕である。さあ、希望を抱いて臨もうではないか。 =敬称略=
 (編集委員)

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