【内田雅也の追球】早朝に起き、甲子園に集い、策を練る 「当たり前」の苦労が報われた日

[ 2023年5月27日 08:00 ]

セ・リーグ   阪神2―1巨人 ( 2023年5月26日    甲子園 )

<神・巨>7回、鋭い目つきで打席に立つ大山(撮影・岸 良祐)
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 東京駅を朝6時台に新幹線に乗り、新大阪駅で降りるとき「あれ? 乗ってたんか」と声をかけられた。阪神バッテリーコーチ・嶋田宗彦だった。同じ車両だったが、互いに気づかなかった。

 「いろいろ、あるからな」と甲子園に向かった。移動日、コーチやスコアラー、選手たちも早朝に起き、甲子園に集う。データを分析し策を練る。ヘッドコーチ・平田勝男は「当たり前のことよ」と前置きして「今回は巨人の打線が上り調子になっていたからな」。

 そんな「当たり前」の苦労も報われた。今季初登板の先発・桐敷拓馬がよく投げ、復帰の湯浅京己、そして岩崎優の継投で1失点でとどめた。

 実は3回表2死三塁から坂本勇人に先制打された時点から「これは阪神の試合か」と流れをみていた。当たりは左越えだったが、クッションボールを処理したシェルドン・ノイジー―木浪聖也―中野拓夢の好中継で坂本を二塁で刺していた。

 4回表は1死一塁からのヒットエンドランを空振り三振と梅野隆太郎の強肩で盗塁阻止、併殺に仕留めた。5回表1死一塁、ボテボテゴロを二塁送球して封殺した中野も地味だが渋い。こうして好守備で追加点を防ぎ、僅差での終盤勝負に持ち込む。これが阪神ペース、勝つ形なのだ。

 この夜は「伝統の一戦」企画で今のプロ野球初年度1936(昭和11)年当時の復刻ユニホームで戦った。昨年も行ったが、巨人のユニホームは帽子の「G」マークとストッキングのラインが白から赤に変わっていた。

 巨人初代監督だった三宅大輔が<ジャイアンツと同様のユニホームをアメリカで作って帰ってきたときは実にアカヌケしていいものであった>とスポニチ本紙63年3月14日付に書いていた。36年の第2回米国遠征の話で、その赤だろうか。

 三宅は本紙に定期的にコラムを寄せ、別稿にルー・ゲーリッグに教わった話がある。「打者は技術面だけでなく精神面も重要視される。打席でまず投手をにらみつけろ」

 逆転の足場となった大山悠輔が死球を受ける前(後ではない)、モニターに映る目がそれだろう。三宅は<投手も打者をにらみつけなければいけない>と書いていた。湯浅がピンチで岡本和真を見る目も鋭かった。あのライナー性打球が中飛で収まったのは技術論だけで説明できない。根性論だと笑ってもいられないだろう。=敬称略=(編集委員)

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