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金子達仁氏 “感性”に委ねて“データ”を解釈する

[ 2022年11月26日 05:10 ]

FIFAワールドカップ(W杯)カタール大会

ドイツに勝利して森保監督と喜ぶ長友らイレブン(撮影・西海健太郎)
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 【金子達仁 W杯戦記】ドイツ戦の勝利でW杯、あるいは日本代表に対する見方や空気が一変した、と感じているのはわたしだけではないはず。180度、どころではない。もう1周しての540度手のひら返し。無能呼ばわりされていた森保監督は、一夜にして名将の扱いを受けるようになった。まったく、人間というのは勝手な生き物である。

 大学でマーケティングを教えている我が家の大黒柱によると、経営の世界には「アートかサイエンスか」という命題があるのだという。アートとは感性。サイエンスとはデータ。重要な決断を下す際、どちらに重きを置くべきか、という問題なのだそうだ。

 この命題に最適解や法則性が見いだされる日は、おそらく、ない。ある場合においてはデータを信じるべきだし、ある場合ではそれを無視して突き進んだ方がいいこともある。ドイツ戦の勝利に関して言えば、さしずめ森保監督の感性の勝利、といったところか。もちろんそれなりの裏付けがあっての采配だっただろうが、ほぼすべてのデータは、日本の挽回が不可能だと示していた。データ分析の専門家によると、あの逆転劇は「データサイエンスの敗北(笑い)」だそうである。

 ただ、だからといってデータを無視することもできない。

 対戦を前に必ずといっていいほどメディアに取り上げられる「FIFAランク」は、言ってみればFIFAが世界に提供しているデータである。正直なところ、わたしはこのランクにまったく信を置いていなかった。

 ところが、出場32カ国が1試合ずつ戦った時点でのデータを見て驚いた。全16試合のうち、FIFAランクで劣りながら勝ったのは、たった2カ国、サウジと日本しかなかったのである。

 FIFAがこのシステムを導入したのは、W杯米国大会を翌年に控えた93年のこと。サッカーになじみのない米国人のために、少しでもわかりやすい目安を提供したかったから、とわたしは見ている。ただ、ファンやメディアのみならず、当事者たる選手も強く意識するテニスやボクシングの世界ランクとは違い、サッカーのランク付けは選手たちには響かなかった。「FIFAランク?だから何?」というのが、世界中のフットボーラーの偽らざる心境だろう。

 だが、「役立たず」「実勢を表していない」と冷ややかな目の注がれてきたランク作りに少しでも信憑性(しんぴょうせい)を持たせるべく、これまでに4度、FIFAはランキングの算出方法を変更してきている。端的に言えば、現在のランク付けは世界最先端の数学的理論にのっとったもの、なのだそうだ。

 なので、わたしも手のひらを返すことにした。

 FIFAランクなんかクソ食らえ、ドイツに勝つ日本の勝率を18%とはじき出し、前半が終わった時点では3%にまで下げた米国のデータ分析会社なんかクソ食らえ、と思っていた自分を改める。

 日曜日に対戦するコスタリカのランクは31位、米国のデータ分析会社“ファイブ・サーティエイト”は彼らが勝つ確率を18%、日本が勝つ確率は56%だとはじき出している。これは、アルゼンチン対ポーランドを予測するデータとまったく同じ数字である。

 データ、万歳。

 ただ、これはあくまでも一時的な心変わりになる。

 こうもり男と笑わば笑え。

 コスタリカ戦が終われば、勝手な人間の一人たるわたしは、再び手のひらを返すつもりである。(スポーツライター)

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2022年11月26日のニュース