月9「監察医 朝顔」山口智子 名台詞の舞台裏「魂の奥底から絞り出した」食べ物イヤリングは自前の遊び心

[ 2019年9月23日 08:00 ]

山口智子インタビュー(上)

「監察医 朝顔」で23年ぶりに“月9”ドラマに出演、圧倒的な存在感を放った山口智子(C)フジテレビ
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 女優の山口智子(54)が23年ぶりにフジテレビの看板枠“月9”に出演し、話題を集めた「監察医 朝顔」(月曜後9・00)は23日、30分拡大で最終回(第11話)を迎える。山口は主人公の恩師で自由奔放・神出鬼没な謎多き法医学者“茶子先生”を快活に演じ、絶大な存在感。キャラクターの造形には、ユニークなイヤリングを自ら用意する遊び心あふれるこだわりも。「心に刺さる」などとインターネット上で反響を呼んだ第8話(9月2日)のセリフは自身の人生観を込めて変更し「魂の奥底から絞り出しました」。山口に撮影の裏側や役作りについて聞いた。

 女優の上野樹里(33)が主演を務め、2006年10月期の大ヒット作「のだめカンタービレ」以来13年ぶりに月9挑戦。06年から「週刊漫画サンデー」に連載されていた同名の人気医療漫画(原作・香川まさひと、漫画・木村直巳)を原作に、新米法医学者・万木朝顔(まき・あさがお)が遺体の解剖を通じて真実を明かしていくヒューマンドラマ。法医学者と刑事・万木平(まき・たいら)(時任三郎)という異色の父娘を描く。

 山口の“月9”出演は、1996年4月期に木村拓哉(46)とダブル主演を務め、社会現象を巻き起こした「ロングバケーション」以来。今回演じたのは、朝顔が勤める興雲大学法医学教室の主任教授・夏目茶子。朝顔が阪神・淡路大震災で母を亡くしたという原作漫画から、ドラマは東日本大震災で母・里子(石田ひかり)が行方不明になっているという設定に変更。朝顔が母を探して訪れた遺体安置所で茶子先生と出会ったことが、法医学者を目指すきっかけになった。

 「茶子は毎日、“法医”という仕事を通して死と向き合っています。東北の震災の時に、朝顔さんや平さんたちと出会いました。死というものに直面しているからこそ、今この瞬間の、今ある命を、強く濃く燃え立たせて生きようと、自身の心に刻みながら茶子は生きていると思います。自分の人生に本気で責任を持って、手を抜かない覚悟です」

 だからこそ、茶子先生は頻繁に旅に出掛け、食も楽しむ。劇中、小籠包が食べたくなったと台湾に行ったかと思えば、学会だが、パラオを訪れ、ロブスターを堪能し、イルカと泳いだ。

 「ちゃんと仕事すると同時に、自分で自分の時間を意欲的に作り出して、今見たいものを見に行く、食べたいものを食べに行く。茶子はフットワークが軽く、人生のすべてを真面目に楽しもうとする人間です。楽しむことも人生の大事な責任。オシャレにしてもそう。暮らしの中で、命ある時間をさらにステキに輝かせようというチャレンジ精神にあふれています」

 その言葉を体現するかのように、イヤリングは山口が自前で用意した。タコさんウインナー、ドーナツ、バナナ、スイカ、カツ丼など食べ物ばかりで、アーティストが手作りして出品している専門インターネットショップを見つけた。価格は1000円前後という。

 「どんな悲劇に直面しても、人間は生きていくために食べなければならない。日常の食卓シーンや、つらく悲しい時だからこそひとつのオニギリをかみしめるシーンなど、このドラマでは“食べる”ことに大切に向き合っています。だから、ささやかな隠れたメッセージとして、身につけるイアリングは食べ物にしてみました」と笑った。

 ヒロインを務めた88年「純ちゃんの応援歌」以来31年ぶりの朝ドラ出演が注目され、おでん店「風車」の女将・岸川亜矢美役が好評のNHK連続テレビ小説「なつぞら」(月~土曜前8・00)でも、細かい役作り。「亜矢美さんはいつも歌と踊りと共に生きていて、それが活力になっている人。だから、おでん屋のシーンの時は必ず歌っていようと決めました」と風車のカウンターにいるシーンは、当時流行っていた曲の中からテーマと歌詞がその場面に合っているかを自ら調べ、選んだ曲をアドリブで歌っていた。

 「まず、自分自身が一番楽しんでいるかもしれない(笑)。視聴者の皆さんも結構、細かいところを見ていてくださって、発見してはお声を掛けてくださいます。私自身も、いろいろな映画やドラマを見て、人知れず地味ながらも、細部に隠された演者や作り手の思いを発見していくのが好きなので。歌やイアリングの遊びも、実際はほとんど映像には映らなくても、自分にとって大切な要素です」

 「なつぞら」のインタビューの際も、自由な発想の芝居について「きっと、年を取ることが楽しくてたまらないからでしょうか。歌と踊りのアドリブは、その楽しさの表れかもしれません。フラメンコなどの踊りも、人生の瞬間瞬間をいかに楽しみ、しっかりと味わうかが本来の目的だと思います」と年齢を重ねた境地。人生をいかに楽しむか。茶子先生が山口自身にダブるが「茶子の内部構造は、かなり私と重なっていると思いますよ」

 それが最も表れたかもしれないのが、第8話の後半。朝顔の家で夕食を共にした後、旧知の平が縁側で涼む茶子に話し掛ける。

 「今日、孫とデートをしてきました。2人で手をつないで、公園を歩いて、かき氷食べて。幸せです。幸せすぎて、里子に申し訳ないです。本当なら、あいつもこの幸せを味わえるはずだったのにって思うと…。朝顔から聞いていらっしゃるかもしれませんけども、この間、里子の手袋が見つかりました。やっと見つけた手掛かりです。その近くを探せばいいんですけど、突然、どうしていいか分からなくなりました。自分でもどうしてか分かりません。こんなこと、今までありませんでした。だから、無理やり仕事して、向こう(東北)に行けない言い訳をつくって…。情けないです」

 茶子は自分に言い聞かすように語った。

 「そうですか。わたくしは平さんのこと、情けないなんて思いません。たまには立ち止まることぐらいありますよ。自分が本当にやりたいことって、何なんでしょうね。わたくしもいまだに探してますよ。何なんだろうなぁって、ここ(胸)に問い掛けて、また問い掛けて、でも、たまには立ち止まって、大きく息を吸って、で、また問い掛け続ける。自分の本当の声にたどり着くための旅、みたいなもんでしょうかね」

 実は台本にあったセリフを監督に相談し、変更したという。当初は「ご自分のしたいことを、考えて、考えて、考え抜いて、いったん立ち止まって、また考えて。それで最後に残ったことが、本当にやりたいことなんだと、私は思います」というものだった。

 「ギリギリで踏ん張って頑張っている平さんに、『さらに考えろ』というのは何か違うのでは?と思って。脳で理論的に“~しなければならい”と考え続けても、どこかで息が詰まってしまうのではないでしょうか。 だから思考とは別の、私たちの魂とか細胞のような、命の根元の感覚に耳を傾けることが必要なのではないかと思いました。平さんと茶子は共に、恐れや迷いを抱えながらも人生を懸命に歩む迷える子羊であり、険しい茨の道を進む“同志”です。そんな2人が束の間のひと時、心の声を交わし合う。そんなシーンにしたいと思いました。あきらめて辞めてしまっては、自分の本当の声にたどり着けない。まさに一生をかけた、自分自身へたどり着くための“旅”ですよね」と名台詞誕生の舞台裏を明かした。

 まるで“人間・山口智子”の本心に聞こえたと伝えると「本当に心からそう思って声にしたので(笑)。魂の奥底から絞り出したので、もしそれが皆さんに届いたとしたら、とてもうれしいです」と喜んだ。

 最終回は、大規模な土砂災害が発生する。「震災で愛する者を失い、心の傷を抱えた朝顔さんと平さんにとっては、その悲しみを甦らせるような災害に立ち向かうことは大きな試練です。第8話と第9話では、身近な者を亡くした朝顔さんは、手が震え、解剖できませんでした。そんな彼女が、大災害での更なる試練にどう立ち向かっていくのか。緊張感いっぱいの最終回ですので、是非皆さん、この進展を目撃していただきたいです」と視聴者にメッセージ。「茶子にとっても試練の回。2011年の思いを、今にどう生かすかが試されます」と最後まで熱演を誓った。

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