69歳・奥田瑛二「98歳監督」見据える“じいじ”の眼光 2人の孫を活力源に新藤監督の最年長記録に挑戦

[ 2019年6月16日 10:00 ]

鋭い視線を向ける奥田瑛二(撮影・尾崎 有希)
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 【俺の顔】俳優の奥田瑛二(69)は、円熟期に入っても歩みを緩めることはない。特にこの4年ほどは出演した映画、テレビが実に30本以上に及ぶ。刺激となっているのは、映画監督の長女・安藤桃子さん(37)と女優の次女・安藤サクラ(33)の活躍。そして、なによりの活力源は2人の娘がもたらした孫の存在だ。監督業への意欲もさらに燃やし、自ら目標に定めた98歳に向けたビジョンも明確に出来上がっている。

 今年に入ってからだけでも公開された映画が2本、放送されたドラマが3本と、奥田の充実ぶりは目覚ましい。

 「実は4年くらい前に、役を選ばないで何でもやってやろうと思ったわけ。僕も監督だから、お金をためなければいけないとうそぶきながら、やりまくりましたよ。ただ、検事正や刑事部長といった権力側で狡猾(こうかつ)な役が多くてね。脳味噌が凄く疲れたんですよ」

 そこで一昨年の夏に1カ月の休みを取り、気持ちを新たにした時に出合ったのが、照屋年之(ガレッジセールのゴリ)監督(47)の映画「洗骨」。沖縄の離島に残る風葬をテーマに、妻に先立たれた夫が子供たちの悩みと向き合い家族が再生していく物語だ。

 「脚本を読んで即会って、やることに決めたんです。彼もいい監督で、沖縄に1カ月身を置いたら本来の役者である奥田が回復して、昔映画に出ていたような攻め方ができたんですよ。それがうれしかった」

 妻のタレントでエッセイストの安藤和津(71)が「男女7人夏物語」などトレンディードラマで鳴らしていた時期と比べ「昔は帰らずに酒場から仕事に行っていたけれど今は家で寝てから行く時間があっても忙しいんだから、今の方が忙しいと思う」と評するほどの勢い。原動力の一因は娘たちの活躍にある。

 映画監督を目指した桃子さんは、自身の監督作にスタッフとして付けサポート。一方、女優を志したサクラに対しては「大変な世界だぞ」と忠告しただけで自立を促した。それでも、現在の活躍ぶりの礎は、起用した監督作「風の外側」(07年)にあるかもしれない。

 「“何やってんだ、てめえ、バカヤロウ”って怒鳴りまくっていましたよ。それが1週間くらいたった頃に“あら、すげえ、参った”と思った瞬間があったんです。それからは何も注文しなかったし、今日まで何も言ったことがない。それからとんでもない女優になっているわけだから、2年くらい前にはどうやって役作りしているんだと、僕から聞いたくらい」

 サクラが主演のNHK連続テレビ小説「まんぷく」にもゲスト出演。オファーを受けたのは昨年末で、共演シーンはなかったものの真っ先に浮かんだ思いは「娘に恥をかかせられない」だった。

 「だから、正月の3日から寒いのにコートを着て、散歩してくると言って公園で木を(相手役の)長谷川博己に見立てて立ち稽古をしたり、帰ってきてからもセリフを覚えたり、やり過ぎてセリフが合っているのか間違っているのか分からないくらいやりましたね」

 さらに、2人の孫の存在は別格のようで、話を向けると自然と頬が緩む。「ジェラシーを燃やす女が2人現れた感じ。今までは、バーで独りで飲んでいると、今から出てきて一緒に飲む女性がいるかなあって携帯で電話帳を見ていた。ところが、今は待ち受けに“じいじ”と言っている孫の顔がね。もう、抑止力以上のものですよ。一番嫌われたくないのが孫だから」。思わぬ好々爺(や)の顔を見せる半面、それをエネルギーに変え仕事熱は高まる一方の様子だ。

 98歳は、100歳で亡くなった新藤兼人監督が最後の作品「一枚のハガキ」を撮った年齢。尊敬する神代辰巳監督(享年67)や藤田敏八監督(同65)を超え、熊井啓監督(同76)に近づこうとしているが、70代以降の明確な青写真を描いている。

 「俳優として5行以上のセリフが何カ所もあってしゃべれるのは77~78歳まで。存在だけ欲しいと言われ、ちょい使いではなくちゃんと出演するのは85歳くらいまではいけるだろう。ただ、監督は98歳になってもできると思う。日本の監督の最年長は新藤監督だから、そういう憧れの心を持って生きていければいい。それがあるうちは、前に進めるんじゃないかと思っています」

 6年ぶりとなる監督作の準備にも入っているという。いずれは孫が出演し、さらには3世代で共演も…。期待は膨らむばかりだ。

 ≪初タッグ蜷川実花監督の演出を絶賛≫奥田は「女性のプロフェッショナルが、今後の日本をけん引していく時代がくると思っている」との持論のもとに注目していた蜷川実花監督(46)との初タッグとなった映画「Diner ダイナー」(7月5日公開)に出演。殺し屋のみが集うダイナーで繰り広げられるアクション映画で、冷徹なギャング組織のNo.2コフィをいぶし銀の存在感で演じている。「美意識の塊みたいなセットで、この世界で芝居ができるのは幸せだと思っていたら、あっという間に終わっちゃった。無理強いは絶対にしないけれど、いつの間にか蜷川ワールドに入っているんだよ」とその演出を絶賛していた。

 ◆奥田 瑛二(おくだ・えいじ)1950年(昭25)3月18日生まれ、愛知県出身の69歳。79年「もっとしなやかに もっとしたたかに」で映画初主演。86年「海と毒薬」で毎日映画コンクール男優主演賞、94年「棒の哀しみ」では同賞はじめ主演男優賞を総なめにする。2001年「少女」で監督デビュー。06年の第3作「長い散歩」は、モントリオール世界映画祭のグランプリを獲得した。

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