【内田雅也の追球】痛恨の「3人目」四球 無死満塁はやはり点が入る

[ 2023年4月21日 08:00 ]

セ・リーグ   阪神5―7広島 ( 2023年4月20日    甲子園 )

<神・広>4回、坂倉(左)に四球を与えた西純(撮影・岸 良祐)
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 甲子園球場の記者席はバックネット裏中段にある。「ファンの反応が直に届き、勉強になります」と記者席で観ている阪神球団常務広報部長・城島和弘が話していた。

 最後のライナー併殺で銀傘にため息が響き、男性ファンの声が聞こえてきた。「あ~、おもろかった。負けたけど」

 確かに9回裏の反撃は見応えがあった。3点差を追い3連打で1点。同点の走者も出た。同点、逆転の希望を抱かせた。

 敗れてみれば、失策がらみの8回表2失点は痛い。3回から8回まで追加点が奪えなかったのも響いた。回の先頭打者が出た無死一塁が3度あったが、後続がなかった。強い浜風が吹いたが今季の甲子園初本塁打は出ず、放った2桁安打13本はすべて単打だった。

 ただ、やはり残念なのは先発・西純矢の投球だろう。無死満塁を2度も招いて失点を重ねた。

 「無死満塁は得点が入らない」は俗説である。無死満塁が無得点に終わった時の印象が強いので記憶に残るのだろう。

 統計上、無死満塁で得点が入る確率は83・7%に上り、得点期待値は2・25点と、鳥越規央とデータスタジアム野球事業部が著した『勝てる野球の統計学』(岩波書店)にある。2004―13年のプロ野球の統計である。今もさほど変わっていないだろう。無死満塁はやはり点が入るのだ。

 問題は西純が招いた無死満塁は3人目の走者をいずれも四球で歩かせたことだろう。1回表は無死一、三塁で秋山翔吾にフルカウントから低めフォークを見極められた。4回表は無死一、二塁で坂倉将吾にフルカウントからひざ元速球が外れた。併殺狙いのゴロがほしい場面。わずかの差なのかもしれない。

 1979(昭和54)年日本シリーズ第7戦で、江夏豊が9回裏無死満塁をしのいだ投球は山際淳司が『江夏の21球』で活写し、今や伝説だ。江夏は公式戦でも実に7度、オールスター戦でも1度、無死満塁無失点の快投を演じている。

 だが、そんな芸当は簡単にできはしない。現実は統計数値が示している。西純は無死満塁から2失点、3失点で、逆転を許したのだった。

 季節は二十四節気の穀雨に入った。田畑を潤し、穀物の成長を促す春の雨をいう。昔から種まきの好機とされてきた。敗戦投手となった西純も、反撃実らなかった打線も、実りの秋への糧だとみたい。=敬称略=(編集委員)

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