【内田雅也の追球】「ノムラの考え」生きた3、4点目 “足”で重圧かけ“狙い打った”阪神

[ 2021年3月29日 08:00 ]

セ・リーグ   阪神8ー2ヤクルト ( 2021年3月28日    神宮 )

電光掲示板に掲示された野村語録
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 1、2点目をジェリー・サンズ二塁打、ジェフリー・マルテ本塁打と外国人打者の長打で奪った阪神が、勝利を引き寄せたのは3、4点目の追加点である。ともに一塁走者の足が物を言い、打者が狙い打ったのだった。

 5回表2死一塁で走者は2年連続盗塁王の近本光司。ヤクルト・奥川恭伸にとって初めて迎える盗塁警戒の場面。クイック投法で打者・糸原健斗への投球となった。手もと計測の投球タイムとあわせ、順に追ってみる。

 (1)真ん中低めスライダー 空振り(1秒18)
 (2)(けん制2球)外角スライダー ボール(1秒24)
 (3)外角直球 ボール(1秒07)
 (4)(けん制4球)外角寄り高め直球 右中間適時二塁打(1秒11)

 タイムは1秒2までが合格とされる。奥川は星稜高時代からある程度完成された投手で、クイックやけん制などがほぼプロの水準でできていた。及第点なのだが、緩いスライダーの時はやや時間がかかった。これを捕手・中村悠平も案じたのだろうか、その後は直球を連投させた。

 4球も連続してのけん制で相手の強い盗塁警戒を感じた糸原も直球を狙いやすかった。読み通りの直球を見事に痛打し、ライナーで右中間を割った。盗塁のスタートを切っていた近本は悠々3点目の本塁を駆け抜けた。

 打撃好調な阪神打線にあって、近本はこの3連戦、5の0、5の1、5の0と15打数1安打、打率・067と結果が出ていない。打撃不振のなか、自慢の足で勝利に貢献したのだった。

 試合展開から、ダメ押しとなったのは4点目である。8回表無死一塁、走者は代走、俊足の新人・中野拓夢。リードを大きくとった。投手・吉田大喜は当然盗塁を警戒した。

 打者マルテは1ボール1ストライクから3球目を待つ際、セットでのあまりに長い約6秒の静止に、思わずタイムを要求したほどだ。長い静止時間で走者を足止めしようとしていたのだ。

 プレー再開後、クイックで投げた、その3球目変化球はワンバウンドの暴投となり、中野は難なく二塁に進んだ。大事な勝敗を分ける走者への警戒で、吉田の方がリズムを崩していた。

 無死二塁となってマルテにも右方向を狙う意識が出た。フルカウントから内角寄り直球を右前への適時打にした。

 ヤクルト、阪神両チームで監督を務めた野村克也の追悼試合だった。足を絡め、そして打者の読みで打った、この2点は当時、選手たちに配った教則本『ノムラの考え』に沿ったものだ。

 神宮電光板に掲示された野村語録の一つに「俺の野球人生、最大の失敗は、阪神の監督を引き受けたことだ」とあった。阪神時代の1999年から2001年は3年連続最下位だったが、教えは今に生きていた。

 ジョー・ガンケルを6回無失点とリードした梅野隆太郎も光る。焦点は長かった4回裏の守りだった。1死一、三塁で内川聖一、坂口智隆を計19球使って打ち取った。

 『――考え』にあった「ピンチでは時間をかけ、球数を使え」の教えがよみがえった。

 2017年4月に出した『野村克也 野球論集成』(徳間書店)には<重大なピンチになればなるほど、打者一人に対して、最低でも5球を費やす慎重さと細心さが求められる>とある。ボール球も使い、「誘う」「じらす」「ずらす」リードを説明している。

 制球のいいガンケルに勝負を急がせず、内川に7球、坂口には12球を使って打ち取った配球をたたえたい。

 梅野は野村と直接の接点はない。それでも、これまでも「ピンチでは時間をかけ、球数を使って」と話していた。監督・矢野燿大を通じて「考え」や「教え」は継承されていた。=敬称略=(編集委員)

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