「切れ」「伸び」が数字で見える 最新測定器が球界に浸透中

[ 2017年4月25日 11:10 ]

楽天の則本
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 プロ野球のデータ戦略が新時代に突入――。最新鋭のデータ分析機器である高性能弾道測定器「トラックマン」を各球団が続々と導入している。軍事用レーダー式の追尾システムを応用した解析機器とは何か。そして「トラックマン」が持つ可能性と、プロ野球界に与える効果と課題とは。日本球界を席巻しつつあるテクノロジーの正体を探ってみた。(構成・春川 英樹)

 「切れある直球で空振り三振」。そんな表現が「回転数2500rpm(毎分回転数)を超える直球で空振り三振」と数値化される時代がきた。投球や打球の回転数、リリースの位置、飛距離…。プレーのさまざまな事象を数値化するトラックマン。米軍の迎撃ミサイル「パトリオット」開発で生まれた技術を応用したデータ分析機器だ。日本では楽天がいち早く14年に導入。現在は7球団が設置している。

 球界で長らく「切れ」や「伸び」など、抽象的に表現されてきた現象が数字になる。投球のスピン数を「毎分何回転」と数値化。大リーグでは直球の平均値が2100回転とされ、これを超えると「切れがいい」となる。ソフトバンク・千賀は「昨年は何度か2500回転を超えた。今年は2300〜2400台」と自身の直球の数値を把握。投球の「角度」も投手のリリースポイントと、ボールの軌道などの数値ではじき出せる。

 (1)技術向上 有効活用している一人が楽天のエース則本。「試合後半にリリースポイントのブレが大きくなるのが数字で分かる。そういうものを意識する」と疲れから生じるフォームのブレを減らすことに生かす。ソフトバンク・五十嵐は効果的なカーブの習得に生かした。「カーブを縦に落としたかった。どんなフォームで投げれば感覚と軌道を一致させられるか繰り返した」。感覚頼みからの脱却。数字で裏付けが可能になった。

 (2)故障防止 投手はボールの回転数の変化などで、疲労度や故障の予兆の把握が可能になる。リリースポイントの変化は肩肘の故障に直結する要素で有効なデータだ。

 (3)戦術面 楽天戦略室の塩川達也育成部長補佐は「初対戦の投手は曲がり幅などの数値から“この投手のスライダーは誰々に近い”と伝えることができる」と説明。ソフトバンク藤本打撃コーチは「ロッテの涌井の直球は回転数が多くフライアウトが多い。だから“上から叩いていこう”と指示が出せる」とした。数値の裏付けから、より具体的な指示も実現している。

 (4)編成面 選手の特徴が数値で把握しやすくなるため、一芸に秀でた選手やチームが望む能力を持った選手を分類しやすくなる。

 さまざまな可能性を秘めた最新機器。データの蓄積が不可欠で、本格的な運用には3〜5年かかるとされる。また、運用に不可欠なのがデータを分析する専門家の確保。14年の導入後、外部から専門家を招へいした楽天は、今季から球団の独自スタッフのみで運用を開始。「最終的に数字をどう生かすかが大事。プレーにつなげることができる人材を育てることが大切になる」と楽天・安部井寛チーム統括本部長。設置コストは1000万〜2000万円程度だが、今後は、各球団に必要なのは分析の専門家の確保、育成だという。

 「今後は12球団の競争になる。因果関係は分からないが楽天が好調なのは、そういう意識付けがあるからかもしれない。間違いなく情報戦。後れを取るわけにはいかない」と巨人・堤辰佳GM。

 はっきりとした差が出るのは数年後。だが、日本球界のデータ戦略が、新たな時代に突入したのは間違いない。

 ▼神事努氏(データ分析・コンサルティングを行うネクストベース社エグゼクティブフェローで国学院大学准教授)トラックマンは1球につき75項目の数値が計測可能で、1試合、約250球分が1つのファイルとして蓄積されます。導入が進む一方で、今後は球団内の運用で差が出てくることになるでしょう。「分析する人」に加えデータを現場で説明する“コーディネーター”が必要。その人材の教育が重要で、しっかり役割分担し体制を整えたチームが強くなるはずです。また、米国では40万円ほどの簡易型の小型分析機も登場し、個人購入しキャンプに持参する選手も出てきているという状況です。

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