【内田雅也の追球】岡田監督が口にした「最後までもがかなあかんで」 もがいた先にこそ光が差す

[ 2023年3月25日 08:00 ]

オープン戦   阪神2-5オリックス ( 2023年3月24日    京セラD )

練習中にT-岡田(手前)にあいさつされて笑顔を見せる岡田監督(撮影・北條 貴史)
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 試合前の練習中、三塁側ベンチ前にいた阪神監督・岡田彰布のもとにオリックスのT―岡田があいさつにやってきた。岡田がオリックス監督当時の主軸打者で2010年には本塁打王を獲得している。本名は岡田貴弘なのだが、監督が岡田となり、ややこしいということで登録名を公募で決めたのだった。岡田はいまも「T」と呼ぶ。

 Tが帽子を取ってお辞儀すると岡田は「おう」と笑った後、真顔になり「もがけよ」と言った。「最後までもがかなあかんで」。Tは「はい」と返事して帰っていった。

 Tも近年は出番が減った。昨年は出場わずか36試合、本塁打1本に終わっている。日本一にもなったチームで台頭する若手に押されている。だからこそ「もがけ」という元監督の言葉は、Tにはうれしい励ましの言葉となったことだろう。

 岡田も阪神での現役時代の1993年秋、球団からの引退勧告を拒み、退団(自由契約)している。いまのTと同じ35歳だった。翌年1月、オリックスに移籍した。やはり、もがいていたのだ。

 「もがいていた」と聞けば、鈴木啓示(本紙評論家)を思い出す。金田正一と並びプロ野球最多14度の開幕投手を務め、通算317勝をあげたた大投手だが、毎年開幕前のこの時期は不調だったそうだ。

 「開幕に合わせて調整なんて器用なことはできんかった。常に、これでもかと、もがいてもがいて……その上で疲れが取れてくる。わしはそうしてやってきた」

 今季、自身初の開幕投手に臨む青柳晃洋が苦しんでいる。この夜も毎回の8安打を浴び3失点。1回裏の無死満塁をしのぎ、味方の拙守にも粘りを見せてはいたが、微妙な制球に狂いがあるようだ。開幕前最後のオープン戦登板は不安の残る投球内容だった。

 もがいているのは青柳ばかりではない。ようやくオープン戦1号を放った4番・大山悠輔も、打撃も守備ももたついている佐藤輝明も、快打が出ない近本光司も……多くが本来の調子を取り戻せないまま、苦しんでいる。ただ苦しんでいるだけでなく、練習を積んでもがいているのだ。

 試合後、岡田は「危機感が伝わってこない」と怒りをにじませていた。岡田も選手がもがくことの大切さを知っている。そして、もがいた先にこそ光が差す、と信じているだろう。そんな春の夜だった。 =敬称略=
 (編集委員)

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2023年3月25日のニュース