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【コラム】金子達仁

2点目生んだ本田と長友のワンツーが、たまらなく嬉しい

[ 2016年11月16日 16:00 ]

W杯アジア最終予選B組 ( 2016年11月15日    埼玉 )

<日本・サウジアラビア>後半、原口のゴールが決まり抱き合って喜ぶ本田(中央左奥)

 代表チームとは、知名度の順によって構成されるものではない。キャリアの多い順に選ばれるものでもない――と書けば、誰しも「当たり前だ」と思うだろう。

 だが、残念ながら近年の日本代表には、その当たり前が当てはまらなかった。監督の責任はもちろんある。ただ、もっと大きかったのは国民の意識ではないか。どれほど所属チームで試合から遠ざかっていようが、本田と香川が先発から外れると大ニュースになってしまう空気こそが、代表チームを硬直化させてしまった大きな要因の一つだったように思う。

 結果的に、この試合の最大の勝因は本田と香川を先発から外したハリルホジッチ監督の決断にあった。

 分かりやすいスターがいなくなったことで、サウジアラビアは集中的につぶすべきポイントを見失った。7年前、当の本人を前に「ところで日本代表の監督は誰なんだ?」と聞いたとされるファンマルバイク監督は、どうやら、清武という選手のポテンシャルをご存じなかったらしい。彼を自由にしすぎたこと。これがサウジアラビアの犯した最大の失敗だった。

 MVPを選ぶのは難しい。大迫のポストプレーは素晴らしかった。彼が履いているアシックスのスパイクには鳥黐(とりもち)でもついているのかと、疑いたくなるぐらい、足元のボールはよく収まっていた。だが、ゴールはなかった。決定的な場面でのミスもあった。「それでも他のプレーは良かったから」と評価してしまうのは、ストライカーとしての彼をスポイルすることになる。チームへの貢献は十分に評価しつつ、しかし、MVPはあげられない。

 では、2点目をあげた原口か。彼も素晴らしかった。だが、明らかに疲れてもいた。というより、90分をフルにこなすのはいささか無理があるほどの負荷が、彼にはかけられていた。2点目を決めたことによるアドレナリンは大いなる助けとなったはずだが、終了間際の失点は動かなくなった彼の足も関係していた。これまた、MVPはあげられない。

 ただ、清武にしろ大迫、原口にしろ、試合に臨む気概のようなものがまるで違っていたのは事実だった。PKを獲得した途端、清武が間髪入れずにキッカーとして名乗りをあげたのには、少しばかり鳥肌が立った。日本代表が新たな時代に突入した、象徴的な場面のように思えたからである。

 本田であっても、香川であっても状態次第では先発から外れる。当たり前のようで当たり前でなかったことが、これからの日本では当たり前になる。斎藤も、小林祐も、この日出番のなかった多くの選手も、言葉には出さずとも間違いなく闘志を募らせているはずである。

 もちろん、このまま黙って立場を明け渡してしまう本田や香川であっては困る。そういう意味では、2点目を生んだ本田と長友のワンツーが、わたしにはたまらなく嬉(うれ)しかった。(金子達仁氏=スポーツライター)

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