×

【コラム】金子達仁

モロッコ躍進は就任3カ月の監督の手腕?ハリル監督更迭後に就任

[ 2022年12月8日 11:40 ]

胴上げをされて喜ぶモロッコのレグラギ監督(AP)
Photo By AP

 【W杯戦記】スペインが消えた。PK戦の末に消えた。驚きと寝不足で少し白くなった頭に、とりとめのない考えが浮かんでは消えた。
 PK戦って、何だろう。

 わたしは、PK戦は運だと思う。「PKは宝くじじゃない」と断言したのは、試合前日のエンリケ監督だった。言外に「日本とは違う」とでも言いたげだった彼のチームは、ただの1本もPKを決めることができず、ベスト16で姿を消した。

 漫然とPK戦に突入してしまった感のある日本とは違い、スペインは様々(さまざま)な手を打った。時間内で決着をつけるべく攻撃的な選手を投入し、PK戦突入が濃厚になると、交代で入った選手に代えてPKのスペシャリストを入れるという奇策にも出た。

 それでも、彼らは勝てなかった。エンリケはいまでも、「PK戦は宝くじじゃない」と思えているだろうか。

 スペイン人たちは激昂(げきこう)している。

 わたしが初めてPK戦で負けるスペインを目撃したのは、メキシコでのベルギー戦だった。あのとき、スペイン人たちは猛烈に悲しんではいたけれど、激怒というのとは少し違った。仕方がない。ツキがなかった。ため息をつきながら肩をすくめていた。

 94年、イタリア相手に勝てる試合を落とした時や、06年、フランスに競り負けた時もそうだった。試合に負けたスペイン人からは、いつも「ああ、やっぱり」という諦念が漂ってきていた。

 いま、日本では「感動をありがとう」といった空気が蔓延(まんえん)している。ニワトリが先か卵が先かはわからない。ただ、世界一の経験がある国は、たとえPK戦による敗退であっても、チームや監督を許さない。許さなくなる。自分も含めて、許せてしまっている日本人は、まだまだ甘い。

 代表監督って何なんだろう、とも思った。

 これがクラブチームであれば、シーズン直前に監督が更迭されたようなチームが躍進することはまずない。哲学を浸透させ、連係を磨いていくにはある程度の時間が必要だからである。

 だが、モロッコのレグラギ監督がチームをまかされたのは、大会3カ月前だった。更迭されたハリルホジッチが素晴らしく有能だったから?わからない。元日本代表監督がチームを追われたのは、選手選考が問題視されたからだった。彼が更迭されていなければ、そうした選手が招集されることはなかっただろうし、モロッコの躍進はありえたかどうか。

 監督が良ければチームは勝てる。わたし自身、過去に何度もそう書いてきたし、クラブチームに関しては、いまだそう思い続けている。だが、たった就任3カ月で、レグラギ監督はアフリカ人監督として史上初のベスト8進出をなし遂げた。

 もう、何が何だか。

 ちなみに、ベスト8進出を決めたモロッコ・ハキミのキックは「パネンカ」だった。これは、PK戦にもつれこんだ76年欧州選手権決勝で、最後のキッカーとなったチェコのアントニン・パネンカがゴールど真ん中にふわりと決めたことに由来している。スペインではオーバーヘッドのことを「チレーノ(チリ人)」と呼ぶが、これも最初にこのシュートを決めたのがチリ人だったから、ということらしい。

 サッカーの世界では、こういうことがままある。

 ひょっとすると、これからのサッカーでは、最高の選手をあえて先発させず、ジョーカーとして使うやり方を「モリヤス」もしくは「ミトマ」と表現する日がくるかもしれない。白くなりかけた頭で、そんなことも妄想した。(金子達仁氏=スポーツライター)

続きを表示

バックナンバー

もっと見る