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【コラム】金子達仁

【女子W杯】なでしこにとっての“ドーハの悲劇” だからこそ、この敗北は未来につながる血の涙

[ 2023年8月12日 10:00 ]

女子W杯オーストラリア・ニュージーランド大会決勝トーナメント準々決勝   日本1―2スウェーデン ( 2023年8月11日    イーデン・パーク )

 なでしこジャパンが涙の終戦――。日本代表は11日、女子W杯準々決勝でスウェーデンに1―2で敗れた。警戒していたセットプレーを起点にして2失点。後半に盛り返し、同42分にMF林穂之香(25=ウェストハム)が得点したが、一歩及ばなかった。準優勝した15年カナダ大会以来、2大会ぶりの4強入りを逃したが、MF宮沢ひなた(23=マイナビ仙台)が澤穂希と並んで1大会最多の5得点を挙げるなど、池田太監督(52)の下で若手が急成長。復権への足がかりをつかんだ、なでしこの戦いぶりに魅せられたスポーツライターの金子達仁氏(57)が特別コラムを寄せた。


 後半の半ばを過ぎた時点で、わたしはこんな原稿を書くつもりになっていた。

 「手も足も出ない完敗だった。この大会で勝ち得た名声のほとんどすべてを、なでしこたちは失った。日本の奮闘に歓声をあげ、スウェーデンの攻撃に沈黙した、してくれたニュージーランドの観客は、大きな失望を胸にスタジアムを後にしたことだろう」

 点差は2点。日本が放ったシュートは、この時点でゼロだった。こんな展開から、流れからの逆襲は、サッカーの世界ではまずありえない。少なくとも、男子のサッカーでは見たことがないし、おそらくはスウェーデンの選手たちも、ほぼ勝利を手中にした気分になっていただろう。

 だが、ありえない逆襲を、なでしこたちは演じてみせた。この逆襲は、なでしこたちの名声をいよいよ確固たるものにしただけでなく、女子サッカー全体の魅力を世界に伝える結果にもなったはずだ。

 男子のサッカーでは起こり得ない奇跡が、女子サッカーで起こりかける。女子サッカーには、男子とは違った魅力が、醍醐味(だいごみ)がある。観戦した多くの人が、次のなでしこの、いや、女子サッカーの真剣勝負を心待ちにするようになるだろう。

 ただ、より勝者にふさわしかったのがスウェーデンの側であったことも忘れてはならない。

 後半の半ばまで、彼女たちの日本対策はほぼ完璧に近かった。スペインを粉砕したなでしこのカウンターを封じるべく、サイドの起点には忠実に圧をかけ、要注意人物の宮沢にはほとんど何も仕事をさせなかった。GK山下の奮闘がなければ、試合はもっと早い段階で終わっていたかもしれない。

 だが、チャンスはおろかシュートすら打てないまま70分近くを過ごしてしまったなでしこは、残りの20分プラス10分で、2ケタのシュートを見舞ってみせた。しかも、植木のPK、藤野のFKと、2度の決定機を逸し、完全に心が折れていてもおかしくない状況から、スウェーデンをKO寸前にまで追い込んだ。

 この敗戦は、だから、胸を張っていい。

 2年前の東京で、彼女たちはスウェーデンに1―3で敗れている。ホームで完敗した相手に、だいぶ日本寄りだったとはいえ、ニュージーランドという中立地で最終的には互角といえる試合を演じたことを、誇りに思っていい。

 どれだけの日本人がこの試合を見たかは知らない。だが、見た人ならば、絶対に来年のパリ五輪に期待する。来年の夏、彼女たちは今大会前とはまったく異なる空気の中、日本を旅立つことになる。優勝には届かなかった。それが、W杯5試合を戦った収穫だった。

 12年前、日本を熱狂させたなでしこのW杯初優勝は、言ってみれば突然の快挙だった。わたしも含め、日本人の多くは、女子W杯の素晴らしさを知る前に、優勝の喜びを味わってしまった。結果、次の大会で優勝を逃すと、女子W杯、あるいは女子サッカーへの関心は急速に萎(しぼ)んでいった。

 だとすると、この悔しすぎる敗戦は、なでしこにとっての“ドーハの悲劇”になりうる。いかにW杯に出場するのが困難で貴いことか、多くの人が知った上でのジョホールバルがあったからこそ、サッカーは、W杯は日本に根付くことができた。

 同じ道に、なでしこたちは足を踏み入れた。この敗北は、未来につながる血の涙だった。わたしはそう信じたい。(金子達仁氏=スポーツライター)

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