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【コラム】金子達仁

敗因は個々の能力への過信と裏目に出た監督采配

[ 2024年1月21日 14:00 ]

アジア杯決勝トーナメント
Photo By スポニチ

 ベトナム戦で冷や汗をかかされた直後の一戦である。よもや油断はなかったはず。では、敗因は何か。過信と裏目、ではないかとわたしは思う。

 W杯カタール大会とその後の1年で、日本代表の選手は、ファンは、大きく自信を膨らませてきた。ドイツに連勝し、W杯前には勝てなかった相手へのリベンジも果たした。間違いなく、日本は強くなった。

 結果を残してきたことで、選手たちの意識も変わった。何が変わったのか。「個々の能力に対する自信」が変わった。「日本には圧倒的な個の能力がない。ゆえに組織で対抗しなければならない」という日本人の思い込みは、ここ最近、明らかに希薄になった。長い目で見れば素晴らしい変貌であることは間違いない。だが、イラク戦に関して言えば、この自信が、いや、自信から生じた過信が、命取りとなった。

 2失点したのは、まあ仕方ないとしよう。どちらも原因は個人のミスにあり、そのことは、当の本人が一番よくわかっているはず。システムやメンバーを変えることで問題は解決する。

 ちょっと厄介なのは、点を取らなければならない状況に追い込まれた選手たちの姿勢にある。

 彼らには自分の力量に対する自信がある。ゆえに、徹頭徹尾、彼らは自らの能力で局面を打開しようとした。つまり、1対1で勝利することを前提としたサッカーをやろうとしていた。パッサーは高い頻度でラストパスを狙い、ホルダーは突破ばかりを考えた。

 結果、この日の日本からは組織が、流動性が失われた。端的に言えば、ダイレクトプレーが消えた。対敵能力に相当な自信をもっていたらしいイラクからすれば、目の前の相手に負けさえしなければいいという、実に都合のいい状況を出現させてしまった。

 日本の個々の能力は確かに向上している。だが、組織力を使用せずして相手を破壊できるほどではない。そのことを実感できたのが、この敗戦がもたらしてくれた最大の教訓だろう。

 森保監督の采配も裏目に出た。ベトナム戦での南野は見事だった。交代出場した久保の動きも光った。ならば、グループ最大の強敵であるイラクには、この2人を先発させようと考えたのはよくわかる。ただ、この日に関して言えば、2人の併用は何のプラスも生まなかった。南野からはベトナム戦の輝きが消え、久保の仕掛けは幾度となくイラクの餌食となった。両者の間に、期待された化学反応はまったくなかった。

 選手交代も裏目だった。後半、冨安を投入したのは明らかに高さ対策だったはずだが、後半のピッチにアイメン・フセインはいなかった。2点を追う日本にとっては、ただ谷口のフィード力が失われただけ、という形になってしまった。

 浅野に代えての上田投入や、旗手、前田の2枚代えも、およそ効果的だったとは言い難い。むしろ、新たなアタッカーが投入されるごとに、チームからは流動性が失われていった印象さえある。ここまで監督采配が裏目に出る試合というのも、ちょっと珍しい。

 この1敗によって、影を潜めていた森保批判に再び火がつく可能性は十分にある。ただ、たった1敗ですべてが灰塵(かいじん)に帰してしまうほど、この1年で彼らが積み上げたものは脆(もろ)くない。過信は困るが、それでも、自信は必要である。采配にしても、そもそも、一度も裏目を引かない監督などいるはずもない。インドネシア戦では、少しだけ謙虚さを取り戻した日本を期待する。(金子達仁氏=スポーツライター)

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