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【コラム】金子達仁

アルヒラルの“本来の姿”埼スタで牙をむく

[ 2023年5月5日 20:00 ]

ACL決勝1stレグ、アルヒラルのサポーター
Photo By AP

 サウジアラビアのサッカーに驚かされたことなら何回かある。

 古くは94年のW杯米国大会。ベルギー戦でオワイランが見せた5人抜きのドリブルシュート。記者席にいたベルギー人記者の様子は、いまも思い浮かべることができる。絶句。凝固。茫然(ぼうぜん)自失。彼らは不甲斐(ふがい)ない自国のDFに怒りの声をあげることすら忘れていた。

 最近でいえば、何といってもW杯カタール大会のアルゼンチン戦だろう。この大会から導入されたオフサイド判定機器の精度を知っていたとしか思えない極限のオフサイド・トラップ。先制を許してからのまさかの逆転。「W杯史上最大の番狂わせ」と断定するメディアもあったこの試合には、わたしも度肝を抜かれた。

 ただ、オワイランにしてもアルゼンチン戦にしても、驚かされたのはあくまでも結果であって、展開された内容に驚かされたこと、感銘を受けたことはほとんどない。わたしにとってのサウジアラビアは、基本、退屈なアンチ・フットボールの国だった。

 唯一の例外が、アルヒラルだった。

 6年前、ACLの決勝でレッズと対戦した際のアルヒラルは、わたしが抱いていた中東サッカーへの偏見を木っ端みじんにするほどに強く、美しかった。守ってカウンターにかけるだけ?とんでもない!ホーム&アウェーの180分間、主導権を握っていたのは常に彼らの側だった。

 アマチュア時代ならばいざ知らず、Jリーグが発足して以降、アジアと戦う日本のチームは、結果として敗れることはあっても、内容で圧倒されることはまずなくなっていた。それを、アジアのクラブナンバーワンを決める舞台で、日本を代表するクラブがやられてしまったのである。

 もしこの大会がW杯やWBC並みの注目度と権威を持っていたとすれば、GK西川が国民的英雄になっていてもおかしくなかった。レッズからすれば、それほどに苦しんだ末の優勝だった。 

 あのときと同じカードが、再び決勝で実現した。しかも、アルヒラルを率いるのはあのときと同じラモン・ディアスである。わたしは相当な苦戦を覚悟したし、それはレッズのファンも同様だったはずだ。

 それだけに、第1戦の内容は、いささか意外というか、拍子抜けだった。

 白状すると、6年前同様、GK西川がとんでもなく忙しくなるだろうというのがわたしの予想だった。守備陣の連係ミスから先制点を許した時点では、さらなる猛攻の始まりを覚悟した。

 だが、アルヒラルはこなかった。

 とにかく相手を攻め倒してやろうという若い意欲に満ちていたのが6年前のアルヒラルだとしたら、今回の彼らは、良くも悪くも老成していた。彼らは、2点目がほしいという欲望よりも、1点を与えたくないという理性を優先させた。

 もっとも、6年前は先制点を奪ったのがレッズだった。アルヒラルからすれば、嫌でも前に出なければならない状況だった。今回は違った。出なくてもいい状況が、彼らのサッカーを消極的にした可能性はある。

 だが埼スタでの第2戦はそうはいかない。アウェーゴールを許した彼らは、最低でも1点をあげない限り、5度目のアジア制覇はない。おそらく、今度は立ち上がりからガンガンしかけてくることだろう。

 それを、赤い雄叫びに後押しされたレッズが迎え撃つ。5月6日は、ひょっとするとW杯より熱く、予断を許さない一大決戦である。(金子達仁=スポーツライター)

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