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【コラム】金子達仁

古橋の高い意識を証明したQBK弾

[ 2023年10月19日 05:00 ]

2006年サッカーW杯ドイツ大会・クロアチア戦の後半、決定的なシュートを外すFW柳沢敦(左)
Photo By スポニチ

 柳沢敦。個人的には、Jリーグ発足以降の日本サッカーが生み出した最高級のストライカーだと思っている。高校を卒業した段階で、彼ほどに期待をさせてくれたアタッカーはいなかった。

 だが、柳沢がプロ生活で残した結果は、およそ期待通りとは言い難いものだった。通算108ゴールは、大久保嘉人が記録した数字の半分程度。素晴らしい才能を持ちながら、彼はそれを開花させきれなかった。

 柳沢のキャリアの中で、分岐点というか大きな打撃となったのは、06年W杯ドイツ大会におけるいわゆる“QBK”だろう。第2戦のクロアチア戦。彼は「あとは流し込むだけ」という状況でのシュートを、とんでもない方向に外してしまう。「急にボールが来た(QBK)ので」という彼のコメントは、その年の「現代用語の基礎知識」に掲載されるほど広まってしまい、以後、柳沢が代表に招集されることはなかった。

 あのプレーは、当時のジーコ監督のみならず、世界各国のメディアからも手厳しい批判を浴びた。柳沢の完全なミスだったことは事実。だが、最近になって思う。チュニジア戦の快勝を受けて、なおさらに思う。

 なぜQBKは起きてしまったのか。それは、わたしたちがそういうゴールをほとんど評価してこなかったからではないか、と。

 日本に大型のストライカーが少ないのは、日本人が小柄だから、ではない。大柄の選手を育てようとしていないから、である。そのことは、ダルビッシュや大谷を育てた野球界に目を向ければよく分かる。

 わたし自身、若い頃は武田のミスは許せても、高木のミスは許せないクチだった。高木には、武田にはできないことができるのに、高木のできないことばかりをあげつらってしまっていた。

 同じように、わたしは難易度の高いシュートを絶賛する一方で、いわゆる“ごっつぁんゴール”をどこか小馬鹿にしていた。もしわたしのような考え方が一般的だとしたら、「難易度の高いシュートは決めるけれど、QBKには対処できない」ストライカーが多くなっても不思議ではない。

 前々日のチュニジア戦。先制弾を決めたのは古橋だった。だが、翌日のスポニチの1面は久保だった。いや、もちろん久保は素晴らしかった。それでも、崩せそうで崩せない展開の中で決めた古橋の落ち着きは見事だった。にもかかわらず、彼のゴールを称賛する声は、ほとんどなかった。

 あれこそ、まさにQBKだったはずなのに。

 旗手からのラストパスは、直前で相手に当たって大きくコースを変えていた。常にQBKに備えている選手でなければ、決められないゴールだった。

 古橋をはじめ、セルティックでプレーしている選手には、どれほど結果を残しても、スコットランドのレベルが低いから、という声がつきまとう。分からないではない。ただ、スコットランドで、タフな相手と、時に荒れたグラウンドでプレーしながら決定機に数多く顔を出している古橋でなければ、あれほどの落ち着きは持ち得たかどうか。

 何より、リーグのレベルが低ければダメというのであれば、かつてJリーグでプレーしながら代表チームでキャプテンを務めたドゥンガやピクシーはどうなってしまうのだろう。

 どこでプレーしようが、選手が高い意識を保っていれば、プレーのレベルもまた保たれる。磨かれる。古橋にとっては、そのことを自ら証明したQBKだったと言えるのではないか。(金子達仁氏=スポーツライター)

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