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【コラム】金子達仁

ストライカーの“ズラタン化”必須

[ 2023年6月16日 11:00 ]

国際親善試合   日本6-0エルサルバドル ( 2023年6月15日    豊田ス )

<日本・エルサルバドル>後半、ゴールを決めポーズする古橋(撮影・西海健太郎)
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 長年、日本代表の課題は、守りを固めてくるチームを相手にした際の戦い方だと言われてきた。だとしたら、6―0という結果を受けて「相手が弱すぎ」だの「退場者が出たから」と腐すのはいささかフェアではない。(金子達仁=スポーツライター)

 確かにエルサルバドルは強敵ではなかったし、早い時間での退場者が試合展開に大きな影響を与えたのは事実だろう。だが、そんなチームを相手に手こずってしまうのが、これまでの日本代表だった。

 正直、わたしには目からウロコの試合だった。これまでの森保監督は、強敵相手には激しいフォアチェックで攻撃の芽をつぶそうとし、そうでない相手にはボールを保持するサッカーをやってきた感がある。ところが、この日の日本は、立ち上がりから激しく相手最終ラインに圧力をかけた。言ってみれば、防虫剤として使ってきた薬品を、殺虫剤として使用したようなものである。

 これが、効果てきめんだった。

 エルサルバドルは決して強いチームではないが、しかし、6点を取られるのが当たり前のチームではない。W杯カタール大会予選、彼らが喫した最大失点はカナダ戦の「3」だった。そんな相手から奪った6得点は、まずまず評価できる。力の落ちる相手にはこういう戦い方も有効だと選手たちが認識してくれれば、なおさら大きな意味を持ってくる。

 個人的に興味深かったのは、久保があげた3点目だった。起点となったのは、右サイドにいた彼から三笘へのサイドチェンジ。本来であればほぼお役御免となるこの場面、久保はスルスルと中に入り、ついには反対サイドにまで足を踏み入れていた。周囲の顔色を窺(うかが)う立場の選手にはまずできないポジション移動とその後の得点に、この1年で彼がつかんだ自信の厚みを見た。

 もう一つ面白かったのが、ともに1ゴールをあげた2人のストライカーの違いだった。極端な言い方をすると、非常に難易度の高いフィニッシュを志向しているのが上田で、できる限り簡易なフィニッシュを狙っているのが古橋だった。どちらがいい、どちらが悪いというわけではないのだが、代表チームのような熟成時間が不足しがちなチームの場合、古橋の方が汎用(はんよう)性は高いのではという気がする。難易度の高いフィニッシュは、出し手にもデリケートさが求められるからである。

 ただ、W杯でベスト8以上を目指すチームのストライカーとしては、上田も古橋もまだまだ物足りない。

 これまた極端な例になるが、前線にイブラヒモビッチを置くチームのMFたちの気持ちを想像していただきたい。彼らは、自分の感覚にあわせてズラタンを動かそうとするだろうか。そもそも、前線の動きに合わせてパスを出すだろうか。

 優れた、超一流のストライカーとは、パスを出してもらうだけではなく、出させることもする。出てこなければ、精度が低ければ激怒もする。そのことが、最終的に受け手と出し手の関係を成熟させていく。

 だが、この日の試合では、上田や古橋が仲間たちに声を荒らげている場面は見られなかった。意地悪な見方をすれば、出されているパスの質、タイミング、そして回数に満足している、ということになる。

 そんなはずは、ない。

 本気でW杯でベスト8以上を目指すというのであれば、多くのポジションでの意識改革が必要になってくる。ストライカーたちが少しでも“ズラタン化”することは、そのうちの一つではないかとわたしは思う。(金子達仁=スポーツライター)

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