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【コラム】金子達仁

日本は平均値維持し、個も育てる方法模索を

[ 2023年12月7日 06:00 ]

 サッカーはその国の国民性が表れるスポーツである、と聞いたのは中学生の頃だった。なるほど、ドイツは勤勉だし、ブラジルは自由奔放だし、イタリアは何となくおしゃれだし。

 ただ、世界の常識でもあるこの説には、どうしても納得しがたい部分があった。

 日本のサッカーに、日本の国民性が表れているとは、到底思えなかったのだ。

 いまならば理由はよくわかる。この国におけるサッカーがマイナーだったから。平均値から日本を類推させるには分母が小さすぎたから。何より、W杯出場など夢のまた夢の世界だったがゆえに、国としていかなるサッカーを目指すべきかという論議がほとんどなされていなかったから。4年ごとに漏れ伝わってくるW杯の流行を追いかけているだけだったから。

 そんな日本サッカーのあり方は、Jリーグ創成期にやってきた外国人選手にも不思議に思えたらしい。

 「なぜ日本人は社会をこれだけ組織的に運営しているのに、サッカーになると約束事がなくなってしまうんだ?」

 つまり、ドゥンガの目にも、日本サッカーが日本人の国民性を表している、とは見えなかったらしい。

 幸いなことに、21世紀も4分の1が過ぎようとしている現在、日本サッカーはようやく、「いかにも日本らしい」という評価を獲得しつつある。前線から守備をする勤勉さ、苦境に立たされても諦めない精神力、さらには平凡な存在からの一気の飛躍。多くの外国人が、森保監督の率いるチームに、日本の歴史や社会をダブらせるようになってきた。

 これは代表チームだけの功績ではない。以前とは比較にもならないほど多くの人が、日本サッカーの将来を考え、試行錯誤を繰り返した結果、つまりは教育の成果である。

 5日、経済協力開発機構が発表した国際的な学習到達度調査で、日本は調査対象の3分野すべてで世界トップレベルとされる結果を残した。対象となったのは世界各国の15歳。数学的リテラシー、読解力、科学的リテラシー。すべての分野で日本を上回ったのはシンガポールだけだった。

 興味深いのは、米国やドイツといった西欧の経済大国が各ランキングのベスト10にも入っていないこと。経済評論家の森永卓郎さんがラジオで解説していた話によれば、「格差が大きくて平均値が高くないだけ。トップクラスは日本よりも遥(はる)かに上」とのことらしい。平均値は高くとも、傑出した個人が出にくい……なるほど、日本社会をよく表している。

 これは、サッカーにも通じる話かもしれない。

 インドネシアで行われていたU―17W杯は、ドイツとフランスの間で決勝が行われ、PK戦の末にドイツが初優勝を果たした。素晴らしい熱戦ではあったものの、この大会でわたしが強烈な印象を受けたのは、決勝を争った2チームではない。アフリカの2チームである。

 セネガルもマリも、アフリカ特有の強烈な個性はそのままに、これまではなかった組織性を身につけていた。サッカーに関していえば、アフリカもまた教育を浸透させつつある。正直、日本の高校サッカーとは完全なる別次元の存在だった。

 となれば、日本もこのままではいけない。平均値を維持しつつ、飛び抜けた個も育てる方法を模索していかなければならない。教育界が探している新たな道は、おそらく、そのままサッカー界にとっての道筋にもなる。(スポーツライター)

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