×

【コラム】金子達仁

許されない…競技を汚した“北の蛮行”

[ 2023年10月5日 11:30 ]

<日本2-1北朝鮮>試合終了後、鬼気迫る表情で主審に猛抗議する北朝鮮代表選手ら
Photo By AP

 この原稿が紙面に載る時には、すでにアジア大会の準決勝は終わっている。ただ、どうしても触れておきたいことがある。

 準々決勝、対北朝鮮戦のことである。

 百歩譲って北朝鮮の激しいプレーについては容認するとしよう。確かに激しかったが、それが彼らの考える勝利への近道であり、また、今回に限ったことではない。歴代の日本代表選手も、通ってきた道ではある。

 審判に対する試合後の猛抗議も、シン・ヨンナム監督の「主審が公正でなければ、サッカーに対する侮辱だと思う」というコメントも、まあわからないではない。PKにつながったGKと西川の接触は、確かに微妙なプレーではあった。倒れた直後の西川はすかさず主審の方に目をやっていたが、あれは本人にもダイブの意識があったからだろう。

 ただ、そうした点を差し置いても、自業自得というしかない。

 後半27分、北朝鮮DFキム・ユソンは給水タイムでグラウンドに入った日本のスタッフから水を奪おうとし、挙げ句、拳を振り上げて恫喝(どうかつ)した。長い間サッカーを見てきたが、正真正銘、生まれて初めて見る蛮行だった。

 57歳のわたしがそうなのだから、若い主審にとっても驚愕(きょうがく)の光景だっただろう。審判とて人間である。西川とGKが接触した瞬間、主審が「待ってました!」とばかりに笛を吹いたようにわたしには見えた。言語道断な行為を行ったチームに対する、懲罰の笛である。

 勝つために激しく戦うのは北朝鮮に限った話ではない。試合後の猛抗議も、ラテンの国々ではままあること。ただ、給水に入ったスタッフを恫喝するのは、千歩どころか万歩譲っても許されることではない。

 94年W杯、ファンからやじられたドイツ代表エッフェンベルクが中指を突きたて、即座に強制送還されたことがある。彼がやったのは、いわば身内を挑発する行為。それでも、ドイツサッカー協会とフォクツ監督は彼を許さなかった。

 今回、キム・ユソンがやったことは、日本人の北朝鮮に対する嫌悪感を掻(か)き立てただけでなく、競技自体に対する印象を失墜させかねない。どれほど激しくぶつかっても、最後は握手で別れるラグビーW杯が行われているだけに、後味の悪さはより際立ってしまった。わたしは、彼を「サッカーに対する侮辱」、いや「罪」として国際舞台から永久追放すべきだと考える。

 数年前、日大アメフト部の反則タックル問題に注目が集まったことがあった。日大の選手全員が反則をしたわけではないが、それでも、チームは出場資格を剥奪され、関係者は釈明を余儀なくされた。

 残念ながら、日本人がどれだけ騒いだところで、北朝鮮が自浄能力を働かせるとは思えない。ただ、今回の北朝鮮代表には、選手として2人、コーチとして1人、朝鮮大学に籍を置く在日コリアンが含まれていた。

 映像で見た限り、彼らは蛮行に加わっておらず、「コーチが止めに入った」という報道もあった。それでも、チームの一員であった以上、そして日本でプレーしている以上、どれほど困難であっても、何らかの説明をすべきだとわたしは思う。

 かつて、いわゆる朝鮮学校は公式戦から締め出されていた。参加が実現したのは、在日側の熱意と、無敵を誇った在日サッカーに対する日本人の敬意があればこそだった。いま、交流を支えてきた2本の柱のうち、1本が完全に折れようとしている。在日の関係者は、現況をどう見るのだろうか。(金子達仁氏=スポーツライター)

続きを表示

バックナンバー

もっと見る