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【コラム】金子達仁

カナダ人の深層心理に強敵と刷り込めた

[ 2023年10月14日 06:30 ]

 カナダの選手たちは、この結果をどう受け止めたのか。興味がある。

 1―4という結果は相当に重い。日本がW杯ドイツ大会でブラジルに同じスコアで敗れたとき、わたしは魂を踏みつぶされた気分だった。

 正直、日本とカナダの間に、スコアほどの実力差はなかった。大迫が自作自演のPKストップに失敗していれば、試合はもう少しもつれた展開になっていたかもしれない。

 だが、自分たちに勝つチャンスがほとんどなかったことも、カナダの選手たちは痛感しているはずである。よくて引き分け。チャンスの数や質の面で、両チームの差は明らかだった。

 11カ月前、W杯カタール大会を直前に控えたテストマッチで、カナダは日本に勝っている。勝負を分けたのはセットプレーだったが、彼らが日本をまったく恐れていなかったことは強く印象に残っている。つまり、結果、内容はともかく、精神的にはまったくの五分だった。

 だが、前回は互角だったはずの相手に、カナダは立ち上がりから圧倒されてしまった。カナダ人からすれば、ボクシングの6回戦に出てみたら、なぜか世界王者が相手だった、みたいな感じかもしれない。とにかく、常識的には考えられないような力関係の変化が、日本とカナダの間には生まれていた。

 わたしだったら、面食らうどころではない。わけがわからない。サッカーは、短期間で一気に強くなれるスポーツではない。それは、W杯開催に向けて強化を続けてきたカナダ人自身が、一番よくわかっているはずである。カタール前の日本といまの日本は何が違うのか。それとも、実はあまり変わっていなかったのか。彼らのインプレッションが非常に気になる。

 しかも、この日の日本には三笘がいなかった。久保もピッチに立つことはなかった。いくら日本のサッカーが特定の個人に頼るスタイルでないとはいえ、攻撃の軸がいつもより細くなっていたことは間違いない。早い時間に先制点を奪ったとはいえ、前半の途中まで、浅野はほとんど試合に入れていなかった。

 ところが、時間の経過とともに状況は変わっていった。浅野は上田ではないが、上田がいればやっていたであろう仕事を懸命にこなそうとし、また、周囲も上田ではない浅野の使い方を覚えていった。ハーフタイムに監督から指示されて、ではなく、前半のうちに選手たちで修正をしていく様は、過去のいかなる日本代表でもまずありえないことだった。

 カナダ人がこの日の日本代表をどう見たのか。ひょっとしたら、「PKが決まっていれば違った結果になっていた」と確信しているかもしれないし、「点差ほどの実力差はない。今日は自分たちの日ではなかっただけ」と言い聞かせているかもしれない。

 ただ、彼らの深層心理に日本が恐るべき強敵だと刷り込まれたのは間違いない。少なくとも、カタールでカナダを4―1で下したクロアチア程度には。

 全般的に見て、出来の悪い日本選手はほぼいなかった。当然である、いればこんなスコアにはなっていない。だが、南野についてはちょっと評価が難しい。動きは悪くなかった。チャンスもつくった。ただし、シュートは最低だった。同じことをメッシがやったら、きっとアルゼンチンのメディアは厳しい評価を下す。南野に期待したいわたしは、だからこの日の彼に大いに不満である。(金子達仁氏=スポーツライター)

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