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【コラム】金子達仁

女子サッカー人気に必要な“新アイデア”

[ 2023年8月31日 17:00 ]

05年のサッカー殿堂掲額式で談笑する高円宮妃久子さまと三菱ダイヤモンドサッカーでコンビを組んだ金子勝彦アナウンサー(左)と岡野俊一郎氏
Photo By スポニチ

 一度や二度、ではなかったような。

 「息子さんですか?」

 いえいえとんでもない。親子でも親戚でもございません。ええ、何度かお会いしたことはありますよ。すごく腰の低いいい方です――そんなやりとり。

 カツヒコとタツヒト。似ているといえば似ているし、ばっちり韻は踏んでいる。フリーランスになってようやく仕事がもらえるようになってくると、ちょくちょく聞かれるようになった。

 「ああ、わたしも何回か聞かれたことがありましたよ。息子さんはスポーツライターやってるんですかって」

 これが佐藤さんや鈴木さんだったらまた違ったのだろうが、金子という名字は、名字ランキングの46位。珍しくはないが、ごろごろ転がっているというほどでもない。「ダイヤモンドサッカー」のレジェンド、金子勝彦さんの息子がサッカーの記事を書いている、と思い込む人が多いのはよくわかった。それぐらい、マイナーだった時代の「サッカーを愛する皆さん」にとって、金子さんの、そして「ダイヤモンドサッカー」の存在は大きかった。

 番組を見ているのは、ごくごく限られた一部の人間だった。視聴率が当時の東京12チャンネルの業績に貢献したという話も聞かない。ただ、金子さんをはじめとする番組スタッフ、局、スポンサーがこの番組を早々に諦めてしまっていたら、日本のサッカーはまた違ったものになっていただろう。

 彼らは、不毛にしか見えなかった日本の土壌に、サッカーの魅力を伝え続けた。W杯はもちろん、五輪ですら手の届かなかった時代、日本リーグ(JSL)の観客が3桁の人数でも少しも珍しくなかった時代に、それでも、種はまかれ続けた。

 Jリーグが発足し、W杯や五輪への出場が当たり前になったことで、男子に関する限り、サッカーはほぼ日本という国に根付いたといえる。以前はW杯予選で苦境に立たされるたび、「日本サッカーの危機」といったことが叫ばれたが、今後、万が一日本がW杯出場を逃すようなことがあったとしても、Jリーグが滅びることはあるまい。イングランドがW杯出場を逃しても、プレミアの人気に陰りが出ないように、である。

 女子は、違う。

 W杯で戦前の期待値を超える活躍を見せたなでしこだが、先週末から始まったWEリーグカップの観客数からは、W杯効果がほとんど感じられなかった。開催6試合のうち、3試合は4桁の観客数に届かなかった。最多は浦和駒場の1867人で、W杯で活躍した植木や藤野の所属する日テレ東京Vの試合は810人だった。

 土壌の育った環境からは、世界大会の結果とは関係なく次の芽がいぶく。だが、人気獲得の手段がまず世界大会ありきとなっている女子サッカーは、不毛にも見えるかもしれない種まきを続けていく必要がある。

 なぜ「ダイヤモンドサッカー」の存在は大きかったのか。この番組が、世界のサッカーに触れる機会をつくり続けたからだった。

 いま、日本で女子サッカーに触れる機会がどれだけあるだろうか。

 運営する側からすれば、メディアが取り上げてくれなければどうしようもない、という言い分はあるだろう。だが、女子サッカーにとっての「ダイヤモンドサッカー」がない以上、WEリーグ自身が新しい種まきの方法を考える必要もある。4年前、ラグビーW杯の際にはほとんどの会場で地元小学生が学校ぐるみで招待された。これもまた、種まきの一つの方法である。(金子達仁氏=スポーツライター)

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