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【コラム】金子達仁

それでも彩艶には、とてつもないポテンシャルがある

[ 2024年2月2日 04:50 ]

 無慈悲、としか言いようのない試合を日本はやった。

 スコアの上では3―1。同じスコアでバーレーンに勝った国なら他にもあるが、内容はまるで違った。バーレーンのファンからは「やる気がなかった」といった声もあがっているようだが、厳密に言えば、「やる気を感じさせないぐらいに日本が何もさせなかった」である。

 バーレーンの監督は、ファン・アントニオ・ピッツィ。弱小テネリフェで得点王を獲得し、バルサに引き抜かれた知性派ストライカー。前回大会ではサウジを率いて、敗れはしたものの日本の持ち味をほぼ完全に封じている。率いる国を替えての再戦に、彼は腕を撫していたはずである。

 ところが、試合内容は5年前とはまったく違ったものになった。考えるに、理由は3つ。バーレーンの戦力がサウジほどではなかったこと。日本の戦力が5年前より大幅に向上していたこと。そして何より、日本の選手たちがバーレーンに対し、まるでスペインやドイツと戦うかのような姿勢で臨んでいたこと、である。

 負ければ終わりのトーナメントに入ったことで、日本の選手は、点を取ることと同じぐらい、いや、それ以上に先制点を許さないことに腐心していた。遠藤はいつも以上に重心を後ろに置き、1次リーグでは頻繁に見られた両サイドの攻め上がりも、相当に抑制を利かせた。相手からすれば狙い目だったはずのセンターバックとサイドバックの間には、断じて進入と利用を許さないという強い意志がちりばめられていた。

 言ってみれば、横綱がじっくりと受けから入ったようなもので、こうなると、力の劣る側は苦しい。堂安の先制点が決まった時点で、試合はほぼ終わった。ベトナム戦で安堵(あんど)からの逆転を許している日本には、先制後も弛緩(しかん)する気配がかけらもなかった。

 失点に関しては、これはもう、GK鈴木の個人的なミスである。まずパンチングをミスし、軽いパニックになったのか、クロスの処理を間違えた。挙げ句、クリアできていた上田を押し倒してのOGである。

 先週、失点はGKだけの責任ではない、鈴木を責めるのはお門違い、といった趣旨の原稿を書いたが、この日の失点に関しては擁護のしようがない。海外のメディアでは、GKが日本最大のアキレス腱、といった論調が主流になりつつある。

 わたしは、短期決戦でミスを犯したGKは代えるべきだ、と信じている。これがW杯であれば、鈴木を使い続ける森保監督を批判しまくっている。ただ、アジアカップは結果が求められる大会であると同時に、W杯へ向けた強化の場でもある。鈴木の成長に期待するという狙いがあるのであれば、先発起用を続けることにも納得がいく。

 では、日本の最大の弱点と揶揄(やゆ)されてまでも、鈴木にこだわる必要はあるのか。彼は、リスクに見合う才能の持ち主なのか。日本の首脳陣の答えは「イエス」なのだろうし、率直なところ、わたしも同感だ。彼には、とてつもないポテンシャルがある。

 幸い、鈴木にはまだ挽回のチャンスが残されている。すべての失点の責をGKにかぶせがちな日本人は、本来GKの能力とはあまり関係のないPK戦での活躍を、GKの力と見てくれるところがある。
 準々決勝の相手はイラン。これまでの相手とは比較にならないぐらい強い。試合がPK戦にもつれこみ、そこで幸運に恵まれれば、“アキレスの腱(弱点)”は、一夜にして“アキレス(英雄)”となることも可能だ。(スポーツライター)

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