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【コラム】金子達仁

自分たちの成長と現在地を認識できた

[ 2023年10月19日 08:00 ]

<日本・チュニジア>後半、ゴールを決めた伊東とアシストした久保(左)(撮影・西海健太郎)
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 実は、後半の途中あたりからどうでもいいことでドキドキしていた。

 まさか、シュート0?

 サッカーは点が入らないスポーツだといわれるが、シュートの少ないスポーツ、というわけではない。相当の力の差があったとしても、打つだけならばできる。8月に行われた天皇杯4回戦でJFL高知ユナイテッドの挑戦を受けた川崎Fは、前後半を通じて4本のシュートを浴びている。

 だが、前半チュニジアのシュートはゼロだった。後半に入っても、半ばを過ぎても、ついにはアディショナルタイムに入っても、ゼロのままだった。最後の最後にバーを叩くシュートが放たれたことで、シュート0どころかクリーンシートまでフイになるところだったが、いずれにせよ、ちょっとありえない試合だったことは間違いない。

 思うに、理由は二つある。

 一つは、4日前の試合でチュニジアが韓国に0―4と惨敗を喫していたこと。欧州や南米相手ならばいざ知らず、アジア相手の惨敗は国民感情をいたく傷つけたらしい。世論は荒れに荒れ、日本戦を前にした選手たちの心境は、「勝ちたい」というより「惨敗はしたくない」だったように思える。

 82年スペインW杯でハンガリーに10失点を喫したエルサルバドルは、次の試合、ベルギーを1得点に抑えた。当然である。リードを許しても、エルサルバドルの選手たちは反撃に転じようとはしなかった。大切なのは追いつくことではなく、それ以上失点をしないことだったからである。

 この日のチュニジアも、それと似たりよったりだった。0―0の状況ではもちろんのこと、先制点を奪われても、2点差をつけられても、彼らからは反撃意欲が伝わってこなかった。

 理由のもう一つは、そろそろオリジナルのネーミングを考えた方がいいのでは、と思えるほど厳しさを増した日本の前線からのハイプレスにある。

 おそらく、チュニジアの選手たちは相当に面食らったことだろう。1年前、自分たちは日本を倒している。それも、3―0で倒している。あのときも日本は前線からボールを追いかけ回してきたが、それが自分たちの脅威になることはなかった――。

 ところが、久しぶりに対決した日本のサッカーは、完全に別次元に突入していた。しかも、ハイプレスに捕まると、一気に大量の青いユニホームが雪崩(なだれ)込んでくる。彼らからすると、どこにパスを出すのも虎の穴に手を突っ込む気分だったのではないか。

 となれば、いよいよ重心は後ろに傾かざるを得ない。惨敗への恐怖と、せいぜい同格と見ていた相手が豹変(ひょうへん)していたことへの衝撃。それが、めったにない“完全試合”が成立しかけた理由だとわたしは思う。

 日本からすると、負ける心配はほぼない内容だったものの、ゴールをこじ開けるのは簡単ではなかったはず。まして、相手は昨年0―3で敗れた、W杯本大会出場国なのである。そんな相手を最後まで圧倒し、クリーンシートを達成したことは、選手たちにとって大きな手応えになるだろう。アジア杯でも相手がガチガチに守ってくることが予想されるが、チュニジアより強い国となるとそうはない。

 この時期にカナダ、チュニジアとの再戦を組んだ協会のマッチメークにも拍手を送りたい。1年前に戦い、敗れた相手を連破したことで、選手は自分たちの成長と現在地をはっきりと認識することができた。それが、10月連戦最大の収穫である。(金子達仁氏=スポーツライター)

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