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【コラム】金子達仁

死地を脱し 硬直化した現状が変わってくれれば

[ 2021年11月18日 15:00 ]

W杯アジア最終予選   オマーン 0-1 日本 ( 2021年11月16日    マスカット )

<日本・オマーン>後半、伊東のゴールに喜ぶ吉田(左)ら日本代表イレブン(撮影・小海途 良幹)
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 ホームで苦杯を喫した相手とアウェーで戦う。これはもう、絶対に警戒せざるをえない。まして、中国戦でまさかの引き分けを演じてしまったオマーンは、ここで勝たないと相当に苦しくなる。だから、くる。大阪で戦った以上に、彼らは出てくる――それが、試合に臨むにあたっての森保監督や選手たちの覚悟、気構えだったはずだ。

 だが、オマーンは出てこなかった。

 イバンコビッチ監督の頭の中を想像してみよう。(大阪で勝利は、日本に大変な衝撃を与えたはず。彼らは復讐(ふくしゅう)に燃えている。だから、くる。大阪で戦った以上に、彼らは出てくる。我々はそのスキを狙えばいい――)。

 あくまで想像である。ただ、わたしには他に思いつく理由がない。なぜ、どちらにとっても決戦だったはずの試合が、特に前半の45分が、気絶しそうなほど退屈なものになってしまった理由が。

 日本は大阪でのオマーンの幻影に脅(おび)えていた。オマーンもまた、日本の復讐心や傷ついたプライドに脅えていた。オマーンがこなかったことで日本の警戒心は空回りし、日本がこなかったことでオマーンはやるべきことを見失った。まるで、互いの小さなジャブにのけぞりあうような前半だった。

 後半に入ると、三笘を投入した日本の状況は改善された。ただ、それはあくまでも無残な前半に比べての話であって、いい時の日本とは比較にならないぐらい、見どころは少なかった。

 深刻だったのは日本の中盤だった。ボール保持者に対して顔を見せる動きが極端に少ないため、ダイレクトでのパス回しが消滅し、オマーンからすれば一発のパスだけを警戒すればいい状況を続けてしまった。ボールをもらいにいかない柴崎、相手の急所を突こうとしない柴崎が、果たして柴崎と言えるだろうか?

 それでも、守田という代案が用意されている柴崎はまだいい。より心配なのは、2試合続けてほとんど存在感を発揮できなかった南野と大迫である。どちらも、攻撃陣の中核として期待される選手だけに、彼らが機能不全に陥れば、攻撃スタイルの根本的な見直しが必要になってしまう。

 古橋は速い。三笘には突破力がある。スタメンで使うべきだという声があがるのは当然だ。だが、彼らの武器は相手が疲れてきた時間帯になればなるほど威力を発揮する。一方で、交代で南野や大迫を投入しても、状況を劇的に変えられるかどうかは疑問が残る。ベンチからすれば、切り札を残しておきたいと考えるのもわからないではない。

 ただ、少なくともオマーン戦での2人は、日本代表の大黒柱と呼べるレベルには達していなかった。後半開始のピッチに彼らがいたのは、驚きでしかなかった。

 残念ながら、誰が出てもボールが面白いように回る日本代表の特徴は、完全に損なわれてしまった。三笘の活躍は素晴らしかったが、次からは確実に警戒もされる。歯車が狂うきっかけとなったオマーンを倒すことで自信を取り戻してくれれば、と期待していたが、この内容ではそれも難しい。

 ただ、オマーンを苦しめた中国がオーストラリア相手にも奮闘したことで、日本はグループ2位にあがった。ひとまず死地を脱したことで、采配から選手の動きに至るまで、すべてが硬直化してしまった現状が変わってくれればいいのだが。(金子達仁氏=スポーツライター)

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