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【コラム】金子達仁

これだけ当たった起用 長い監督生活の中でもあるまい

[ 2017年3月27日 15:14 ]

W杯アジア最終予選B組   日本2―0UAE ( 2017年3月23日    アルアイン )

<UAE・日本>前半、ピッチサイドで指示を出すハリルホジッチ監督
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 常識的に考えれば、1得点1アシストの久保がMVPということになるのだろうが、果たしてそれでいいものなのか、本気で悩んでしまう試合だった。

 功労者が多すぎて。

 前半20分、川島のビッグセーブがなければ勝負はどうなっていたかわからなかった。後半立ち上がりに決まった今野の2点目がなければ、猛攻に転じた相手の流れにのみ込まれかねなかった。ポストプレーに抜群の存在感を見せた大迫、攻撃だけでなく守備面での献身も光った原口、相手の攻撃の芽を地道に潰(つぶ)し続けた山口…サッカーたるもの、どれほど素晴らしい試合でも不出来な選手が1人や2人はいるものだが、この試合に関してそういう選手はまったく見当たらなかった。

 ただ、その中でも特に賛辞を贈りたいのは、吉田と森重のCBコンビである。

 よく、守備の場合はコンビネーションが大切だと言われるが、この日の2人は、互いの考えていることが物質化してグラウンドに現れたようでさえあった。2人の関係が完全に破綻したのは、川島が1対1をストップした場面の1回のみ。あとは、マークの受け渡しといい、パスを交換するタイミングといい、申し分なかった。

 吉田に関しては、1対1における対応も見事だった。プレミアリーグであればいちかばちかで飛び込んでいてもおかしくない場面でも徹底して「待ち」の姿勢で対応し、ことごとく相手の自滅を誘っていた。おそらくは、UAEの特徴を把握しきった上でのアジャストだったのだろう。

 そうそう、忘れてはいけない功労者がもう一人いる。

 なぜ西川ではなく川島だったのか。なぜ試合に出ていないという状況は変わらないのに、長友は先発で本田は控えなのか。なぜ2年間も代表から外れていた今野が復帰したのか――試合前、疑問を抱いていた人は少なくなかったはずである。

 だが、正しかったのはハリルホジッチだった。

 これだけ「なぜ?」と思わせる起用法を取りながら、ことごとくそれが当たるというのは、彼の長い監督生活の中でもそうあることではあるまい。2次予選のシンガポールに引き分けたことで大きく狂った歯車は、この勝利によって元に、いや、元以上の状態になるのではないか――そんなことまで考えさせられた。

 試合前の報道では、過去敵地で勝ったことがない相手ということが強調され気味だったが、日本選手の実感としては、「強敵」というよりは「面倒くさい相手」というのがUAEについての印象だったはずである。だが、この日の日本が倒したUAEは、掛け値なしの強敵だった。勝つことで自信を得ることができる、W杯本大会にも持ち込むことができる、いままでのアジア予選ではほとんど対(たい)峙(じ)することのなかった強敵だった。

 アジア予選のレベルアップによる激化は、韓国の大苦戦を見てもよくわかる。ひょっとすると来年の本大会では、アジア勢が旋風を巻き起こすかもしれない。(金子達仁氏=スポーツライター)

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