藤井七段、大胆奇襲まず1勝!初タイトル戦で最年少白星、渡辺棋聖「意表突かれた」

[ 2020年6月9日 05:30 ]

棋聖戦5番勝負・第1局 ( 2020年6月8日    東京・将棋会館 )

<第91期棋聖戦5番勝負 第1局>渡辺明棋聖との第1局を終え会見に臨む藤井聡太七段(撮影・小海途 良幹)
Photo By スポニチ

 将棋8タイトル戦の一つ、第91期棋聖戦5番勝負第1局は、渡辺明棋聖(36)=王将、棋王の3冠=に挑んだ藤井聡太七段(17)が奇襲攻撃、157手で劇勝した。8日で17歳10カ月20日の藤井は、タイトル戦出場史上最年少記録を樹立。同時にタイトル戦最年少勝利記録も更新した。第2局は28日に東京・将棋会館で行われる。

 全国の藤井ファンは悲鳴を上げていただろう。最終盤。渡辺の王を羽交い締めにする決定的な銀打ちを放った直後だ。現役最強棋士が牙をむいて襲いかかる。なんと16回連続王手の大逆襲だ。

 死ぬか生きるかのクライマックスに、しかし藤井は表情一つ変えない。「途中で(自王に)詰みがないと思いました」。一歩間違えば頓死の可能性を秘めた逃亡劇は、針の穴を通すような正確さで安全地へとたどり着く。この手を見てタイトルホルダーはこうべを垂れた。

 「途中から苦しくしてしまったので、勝負勝負といけてよかった。まず1勝を挙げられたのはうれしい」

 藤井は初陣ながら、王者渡辺の十八番の戦型、矢倉に自ら持ち込んだ。大胆な戦法に渡辺は「意表を突かれたところはあった」と語った。観戦の棋士らも驚嘆の声をあげた。

 日本中が注目する大舞台に姿を見せたのは午前8時43分。その勇姿は和装ではなく、見慣れた濃紺のスーツ姿だった。和服は師匠の杉本昌隆八段から昨年贈られていたものの「(挑戦決定の4日から)少しの間しかなく、勝手が分からなかったので」と、冷静に普段着での戦いを選択した。

 課題とされていたタイムマネジメントについても成長面を見せた。終盤の入り口で指した3手に100分以上もぜいたくに消費。その代償として1時間以上のハンデを背負うが、藤井は全くいとわない。昨年11月の大阪王将杯王将戦挑戦者決定リーグ戦(対広瀬章人竜王=当時)では終盤リードを奪いながら中盤の時間消費が響き、1分将棋の中で悪手を指した。あれから7カ月。この日、同じような時間の使い方ながら、今度は相手を先に1分将棋に追い込む。空恐ろしいほどのレベルアップ。「自分としては充実しているなと感じている」。中3日でのタイトな日程も「休むところは休もうと思っていました」と言う体調管理で克服した。

 3勝先勝でタイトルが手に入る5番勝負で開幕勝利は大きなアドバンテージ。勝てばシリーズ王手となる第2局は28日にある。「まだまだ始まったばかり。第2局以降も全力を尽くします」。屋敷伸之・現九段の持つ最年少戴冠記録18歳6カ月14日の書き換えまで、確実に一歩近づいた。(我満 晴朗)

 ▽矢倉 相居飛車戦で古くから指されてきた主流戦法の一つ。序盤は角を交換せず、左桂の上に囲った王を金2枚と銀1枚で守る。金1枚と銀2枚の銀矢倉など変化型もある。じっくりとした重厚な戦いになりやすく、故米長邦雄永世棋聖は「矢倉は将棋の純文学」と表現した。

 ▽棋聖戦 将棋8タイトル戦の一つ。1962年創設、94年まで年2度開催。現在は1、2次予選を経て16人で決勝トーナメントを戦い、勝者が6~8月に保持者と1日制の5番勝負に臨む。決勝トーナメントと5番勝負の持ち時間は各4時間。
 

続きを表示

この記事のフォト

2020年6月9日のニュース