バットもグラブも持たない「先輩たち」が躍動した日本シリーズ NPB審判員の奮闘

[ 2022年11月1日 08:00 ]

日本シリーズ<ヤ・オ>球審を務める福家審判員(10月29日撮影)
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 オリックスは10月30日、「SMBC日本シリーズ2022」第7戦でヤクルトに勝利し、26年ぶり5度目の日本一に輝いた。2年連続4度目となったヤクルトとの日本一決戦。過去3度はオリックスが敗れていたが、念願かなってついに12球団の頂点に立った。

 アマチュア野球担当記者の私は、11~16年にNPB審判員を務めた。今シリーズでは、お世話になった「先輩たち」が晴れ舞台に出場。ミスが許されない大舞台での「ジャッジ」に胸が熱くなる場面が何度もあった。

 第1戦の三塁塁審を務めた土山剛弘審判員は「粘り腰のジャッジ」を見せた。初回、2死一、二塁でオスナが三塁線を破った際どい打球。一度は両手を挙げかけ「ファウル」としかけたが、最後の最後にベースをかすめた打球に対して最終的に「フェア」の判定を繰り出した。リクエストの対象外のプレーだっただけに「ミスジャッジ」から「ファインジャッジ」への切り替えには大きな価値があった。

 しかし、ネットでは大炎上。一塁側からの映像では三塁ベースに当たったように見えたが、左翼側からの映像は不明瞭だったため、ツイッターでは「ファウル」がトレンド入り。だが、翌日に球審を担当した土山審判員は「騒動」も気にせず平常心で臨み、精度の高い投球判定を披露した。逆風の中でも冷静に一つ一つの投球を見極めた姿は「審判員のかがみ」であった。

 第6戦の球審を務めた福家英登審判員の投球判定精度も、また素晴らしかった。私のNPB審判員時代、仕事でもグラウンド外でもお世話になった先輩である福家審判員から褒められることはめったになかった。だが、3年目の13年シーズンに2軍戦の北神戸球場で私が球審を務めた際、一般的には「ボール!」とコールしがちになる、捕手が構えた位置と投球のコースが異なる「逆球」でもしっかり「ストライク!」とコールできた時には「アレ、よう見とったやないか!」と笑ってくれた。うれしかったので、今でもはっきり覚えている。

 せんえつながら日本シリーズでの福家審判員の球審には思わず「よう見とったやないか!」と同じ言葉を返したくなった。「あの日の言葉」のお手本を示すように、審判員にとって厳しい「逆球」でも福家審判員の「ゾーン」は決してブレることはなかったからだ。

 大変お世話になった「先輩たち」に対しても、一記者として「ごまをする」ような記事は書かないと誓ってスポニチに入社して3年目。今回のシリーズでは「ごますり」の必要もなく、野球担当記者として絶賛できるジャッジだった。先輩、本当にお疲れさまでした。(記者コラム・柳内 遼平)

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