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【内田雅也の追球】終決者と未解決事件 「失敗すれば終わり」身をもって知ったアルカンタラ

[ 2022年6月23日 08:00 ]

セ・リーグ   阪神4ー5広島 ( 2022年6月22日    マツダ )

<広・神>10回、本塁打を浴びたアルカンタラ(撮影・平嶋 理子)
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 マイクル・コナリーの小説『終決者たち』(講談社)はロサンゼルス市警でコールドケース(未解決事件)を追う刑事ものだ。原題は『THE CLOSERS』。野球のクローザーにたとえている。

 「われわれは9回、試合の勝負がかかっているときに投入される……クローザー(終決者)だ」と班長のセリフがある。「失敗すれば、試合は終わりだ」

 阪神はクローザーのラウル・アルカンタラが延長10回裏に同点弾、11回裏にサヨナラ弾を浴びた。痛い敗戦である。積極的休養で登録抹消の岩崎優の代役として「失敗すれば終わり」を身をもって知ったことになる。

 1点を守れば勝ちという緊迫状況で登板する難しい心理を思う。長年務めた藤川球児はその精神状態を「クレージー」という。引退直後に出した『火の玉ストレート』(日本実業出版社)にある。<あえてたとえるなら、戦場での心理に近いのではないか>。

 思えば、きょう23日は沖縄慰霊の日。戦中最後の沖縄県知事・島田叡は軍が捕虜になるより自決や玉砕というなか、住民に疎開を勧め、部下にも「生きろ」と説いた。10万人以上の命を救った。「島守」と呼ばれる。

 野球人だった。神戸二中(現兵庫高)、三高(現京大教養部)、帝大(現東大)で俊足好打の外野手だった。那覇市の奥武山運動公園内に建つ「島田叡氏顕彰記念碑」には三高時代の球友の言葉がある。「劣勢と知りつつも、知恵をしぼり、あくまで全力を傾け、ベストを尽くす。これがスポーツ精神だ」

 9回裏、一打サヨナラ負けのピンチをしのいだ加治屋蓮の投球にはこの不屈が見えた。だが1点逃げ切り場面で同じ精神状態でいけるかどうか。クローザーは難しい。

 勝ちたい試合だった。佐藤輝明が同点打に勝ち越し打を放っていた。それまで2度の好機で凡退。名誉挽回の打撃を勝利で飾れれば、今後上昇への好材料になっていた。

 これで広島に開幕から勝ち星なしの9連敗(1分け)。1988(昭和63)年の開幕10連敗のワースト記録が目の前にある。世代交代期だった当時と今は違う。力はあるのに勝てないのは一つの事件だろう。終決者がやられ、事件は未解決のままである。=敬称略=(編集委員)

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