井上尚弥と、佐々木朗希の完全試合と、ノーノーと

[ 2022年6月23日 13:29 ]

ロッテ佐々木朗希(右)とボクシング・井上尚弥
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 【君島圭介のスポーツと人間】プロ野球で今季4度のノーヒットノーランが成立する異常事態だ。うち1試合はロッテ・佐々木朗希による完全試合。事実上達成した中日・大野雄大など「未遂」も含めれば数え切れない。

 どうしてこうなった?その答えのひとつを井上尚弥(大橋)が6月7日に行ったWBAスーパー&WBC&IBF世界バンタム級王座統一戦に見た。

 5階級世界王者のノニト・ドネア(フィリピン)に2回1分24秒でTKO勝ちした試合は第1戦を上回る衝撃だった。井上の体の使い方、パンチの打ち方の肉体的合理性と言えばいいのか。陸上選手のように足の裏から地面反力を利用して拳にエネルギーを伝える。それは究極の域だ。

 ボクシングの井上尚弥とプロ野球の佐々木朗希。この2人は「モンスター」「令和の怪物」の異名を持つ。だが、生まれながらモンスターなのかといえばそうではない。井上はリング以上にトレーニングジムで時間を過ごしているように見える。

 そのメニューはバトルロープやハンマー、器具を使ったコーディネーション系など多彩で全身の筋肉の連動を促している。30年以上前に入門したボクシングジムで私は「筋トレはいらない」と教えられた。重いサンドバッグを叩けばパンチが強くなり、軽いサンドバッグは速くなると教えられた。太い筋肉はボクシングには邪魔だという。

 それはそれで否定しない。理にかなっていたし、そんなやり方で日本は強いボクサーを数多く輩出した。ただ、例えば具志堅用高や浜田剛史、畑山隆則ら類いまれな身体能力を持ったボクサーが現代の科学的で効率のいいトレーニングを積んでいたら。金田正一や松坂大輔なら?

 これまでのレジェンドと違う井上の強さは、パンチを打つとき、もしくはかわすとき、640あるという人間の筋肉のどれを使っているか知っている、もしくは知っている人間の指導を受けている点ではないだろうか。

 野球はボクシングよりトレーニング研究が進んでいる。オフに専門の特種な指導を受ける選手は多い。近年メジャーにならって固くなったマウンドが体幹の安定を促し、その成果を出しやすくなったのだろう。投手優位の試合増は選手が正しい知識を持って肉体を作り上げた結果で、井上尚弥も佐々木朗希もスポーツ科学の申し子なのだ。

 ただ、いつの時代も強者がより強い者を育てる。井上の現役中は難しいかもしれないが、それを超えるモンスター級のボクサーはいつか育つ。ノーノーの屈辱を乗り越え、今度は打者の方が160キロ超の直球や多彩な変化球に対応する最適なトレーニングを見つけるだろう。(専門委員)

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