新井宏昌氏 オリックス25年ぶりVのカギ握るのはあのコンビ 打撃のバランス保てるか

[ 2021年7月20日 08:00 ]

オリックス・福田(手前)と宗

 2014年以来、7年ぶりの首位ターンを決めたオリックス。1996年以来、25年ぶり優勝へのポイントを当時、打撃コーチとして仰木彬監督を支えた新井宏昌氏(69)が分析する。連覇を果たした95、96年と今年のチームを比較したうえで技術、精神両面から悲願成就のための方法論を探る。

 投手陣が強いという意味では、チームカラーは当時と似ていますね。先発の山本や宮城、田嶋、リリーフ陣も、若くて素晴らしい投手がそろっています。当時は中堅からベテランにかけての選手が充実していました。先発陣もそうですが、リリーフは平井、鈴木平、野村と鉄壁で、6回までに1点でもリードすることを考えました。今なら優秀な先発陣が投げている間に1点でも多く取る。これが鉄則でしょう。

 当時はイチローでどう点を取るか。そのために前後の打者をどうするか。打線は、そこに主眼を置いていました。今のチームなら、その存在は吉田正尚でしょう。4番の杉本もそうですが、後半戦のカギは必然的に1、2番コンビの福田、宗になります。

 福田は後ろに軸を置いて、引きつけて体に近いところで打つスタイル。今のところ結果は出ていますが、少し体のバランスを崩すと、外の球も引っ張り込んでしまう傾向があります。遠い球を左方向に簡単にさばくことができるようになれば、また一つ、レベルが上がるでしょう。

 宗も後ろ軸。後ろ回転で腕を小さく使えるのは素晴らしい。ただそういう打者はポイントを近付けすぎると、投手の内外角の出し入れについて行けなくなるケースも出てきます。長くボールを見られる利点がある反面、次の動きが一方向に偏ることもあります。ただ2人とも自分の体が一番、動きやすい状態でバットを操作しているでしょうから、それを無理に矯正する必要はありません。練習から少しの工夫を入れることで、バランスを保つことが大事です。

 一つの方法がティー、トス打撃です。スタンドに球を置いて行う置きティーは、いつも同じバランスで振ることができる。トスだと動いている分、バランスは崩しやすい。ただ試合では球は実際に動いていますし、同じ球が来ることもありません。選手には人に動かされず、自分のスイングをしたいタイプと、試合のことを常に考えたいタイプがいます。置きティーでフォームを固め、トスでは投げ手に内外角に投げ分けてもらう。相手投手は崩そうと思って投げてくる訳ですから、それをいかにバランスを保って打ち返せるか。両方の練習、考え方を組み合わせることで、より実戦に近い形で準備ができます。

 昨年までは相手チームのコーチとして彼らを見ていましたが、2人ともいいモノを持っています。福田は何とかしてやろうと気持ちが全面に出るタイプ。全力で野球に取り組んでいることが見ている者にも伝わるし、好感が持てる。宗も特に守備面で身体能力の高さを発揮しています。2人がいかに塁に出て、好機を整えることができるか。彼らのさらなる成長が後半戦のカギとなるでしょう。

 あと杉本についても話しておきたいと思います。昨年はファームで見ていましたが、ホームランを打つ力があるのは知っていました。捉えれば、見事な打球を打つ。ただ、しっかりと捉えきれない打席をたくさん見てきました。怖さはありましたが、割と簡単に三振してしまうタイプでした。それが今年、この活躍です。昨年と同じような構えで、同じようなタイミングの取り方。私も長くやってきましたが、不思議な打者ですね。何が変わったのかは良く分かりません。一度、近いところで技術や表情を見てみたいものです。中嶋監督が辛抱強く起用したこと。それが一番の変化の理由なのでしょうか。

 中嶋監督とは当時、ともに優勝を目指して戦いました。思い切りのいい、勝負師的な打撃が持ち味。言われた事は、まずはやってみて、自分で判断して、行動を起こしていた印象があります。94年を振り返ると、仰木監督はじめ首脳陣はまず、選手に対する先入観を取り除く作業を行いました。実際に見て、数字とも合わせてイメージを形成していく。95、96年は数字を根拠に「これでダメなら仕方がない」とある意味、開き直って選手起用をしました。

 中嶋監督は2軍監督時代にすでに、先入観を取り除く作業を行っていたのでしょう。選手起用に関しては迷いがなく、我慢強い印象を受けます。長く選手兼任コーチだった経験も生きていると思われます。長いシーズン、波は必ず来ます。それでも何連敗もするような戦力ではない。自分たちの力に自信を持って戦えば、25年ぶりの悲願は成就すると信じています。

 ◇新井 宏昌(あらい・ひろまさ)1952年(昭27)4月26日生まれ、大阪府大阪市出身の69歳。PL学園から法大を経て74年ドラフト2位で南海入団。86年に近鉄に移籍し、翌年に打率・366で首位打者獲得。18年間で通算2038安打。打率・291、88本塁打、680打点、300犠打を記録し、ベストナインも4度獲得した。仰木監督のもと、オリックス打撃コーチとして95年のリーグ制覇、96年の日本一に貢献。イチローを指導した事でも知られる。その後もソフトバンク、広島の打撃コーチなどを歴任し、数々の一流選手を指導した。1メートル75、66キロ。右投げ左打ち。

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