ソフトバンク・明石 貫き通した信念と、ともに歩み続けた“相棒”「18年の極意、秘けつがある」

[ 2022年9月29日 12:30 ]

<ソ・ロ>ナインから胴上げされる明石(撮影・中村 達也)
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 最後の打席も、いつもの明石のバットだった。ソフトバンク明石健志内野手(36)が、22年シーズン限りで現役生活に別れを告げた。03年ドラフト4位で福岡ダイエーホークス入りし、翌04年のデビューから19年間。同じバットを使い続けた。

 9月23日の引退会見で言った。「重さは変えたんですけど、形は、全部一緒です。バットを変えるよりも、自分がこのバットを扱えるようになりたい、バットに合わせたいというのがありました」

 同24日ロッテ戦の7回1死で代打出場。八木の150キロ直球を投手強襲の内野安打。塁上で泣き続けた。通算1008試合で648安打。17本塁打、36三塁打、213打点で打率・252。すべてオレンジ色バットで刻んだ。

 憧れだった小久保裕紀(現2軍監督)モデルで重さ900グラムの長尺。自主トレにも同行するようになるが、バットに自らを合わせながら成長していった。宮崎春季キャンプで教えてくれた。

 「体の一部のように使いたいし、握った感触を変えたくなくて。一つのものを長く使っていれば、一瞬のバットコントロールを求められる場面でも頭より先に体が反応する。違うバットなら、体に染みついていない分、ロスが生じる」。腰の回転の切れとリストで、打球を跳ね飛ばす。重さこそ変化を加えたが感触は常に一緒、最高の相棒だった。

 柳田も今季、明石バットでフルスイングの感触を戻した。左腱板(けんばん)炎で離脱中の4月。筑後ファーム施設の練習試合でオレンジバットを使った。「(プロ)18年の極意、秘けつがあると思ったので使いました」。後輩の間でも、おなじみの“名刀”だった。

 1メートル74、66キロと細身の明石。バク宙でのホームインなど抜群の身体能力が表に出るが、クールに見せかけて努力をし続けた。見た目もシュッとしていて、おしゃれ。ただ、長谷川勇也打撃コーチは「ああ見えて、実は野球小僧」といじりながら称えた。現役時代の小久保2軍監督、明石と米アリゾナ自主トレに帯同したのが中村晃。先輩の「ケンジさん」を、回顧した。

 「天才だなと思っていたけどアウエー戦後でも1人でウエートをしていたし、体重が入団時から変わってないのは、本当に凄い」
 パワーや体格で劣る相手を努力で補ってきた。新型コロナウイルスがまん延中の自主練習期間中、妻の勧めで初めて読んだコミック漫画に感動していた。オンライン対応時に言っていた。「タッチや緑山高校、漫画アニメの面白さが分かった。漫画を、読まなかった」。野球だけに、打ち込んできた。

 「野球選手として突っ走ってきた。少しゆっくりする時もあるので、その時に考えたい」。今後のことは、これから考えるという。ユニホームを脱ぐというより、あのバットを置く。明石には、その表現の方がしっくり来る。(記者コラム・井上満夫)

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