【内田雅也の追球】糸原と梅野「四球後の初球」の功労 今も通じているセオリー

[ 2022年7月31日 08:00 ]

セ・リーグ   阪神7―3ヤクルト ( 2022年7月30日    甲子園 )

<神・ヤ>4回2死二塁、大山は小沢(左)から四球を選ぶ(撮影・北條 貴史)
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 阪神4回裏の5点はすべて2死後に奪った得点である。ヤクルトが先発投手・小沢怜史に次の5回表に打順が回るため継投をためらった側面もあろう。「あと1人」からつないで、つないでの11人攻撃だった。

 光るのは「四球後の初球」を打った2本の適時打だ。糸原健斗は2死二塁から大山悠輔四球後の初球フォークを中前に運んで先制点を刻んだ。続くアデルリン・ロドリゲス四球で満塁とし、直後の初球直球を梅野隆太郎が中前2点打したのだ。

 「四球後の初球を狙え」は古くからあるセオリーだ。四球を与えた後、投手はストライクがほしくなり甘い球が来る。そこを狙えというわけだ。

 ただし、むやみに打ちにいっては悪球に手を出して、失敗する。同じく古い格言の「好球必打」の姿勢が肝要になる。

 その点で糸原は、小沢はこの夜初めてのピンチで初球には得意のフォークが来ると読んで巧みに払うように運んだ。梅野も真ん中直球を素直に投手返しした。一振りで仕留める集中力があった。

 適時打の殊勲は認めた上、たたえたいのは四球を選んだ2人である。大山はチーム最多打点の打者だが、先制機でも強引さを戒め、すべて変化球の際どい球を選んだ。ロドリゲスは空振り2球で追い込まれながらファウルと選球でフルカウントから四球を得た。

 好機では「自分で決める」という闘志と「次につなげる」という自制心との兼ね合いが大切だ。各打者の精神が最適なバランスにあった。

 監督・矢野燿大は「ホームランを打ってくれるに越したことはないけど」とロドリゲスの四球を評価。その前の糸原、さらに前の大山を引き合いに「こういうみんなでつなぐことが理想的な攻撃だと思う」と話した。

 V9巨人の指南書、1957(昭和32)年発行『ドジャースの戦法』(ベースボール・マガジン社)に<四球は時にはヒット以上の恐るべき攻撃的武器となる>とある。<なぜならば、相手の投手は四球を奪われたことによって自信を喪失し(中略)弱気になるからである>と「四球後の初球」に通じる解説がある。そして<四球に重きを置くティームは、例外なくすぐれた攻撃的ティームである>。

 今や古典の書も古い格言も、立派に今に通じている。=敬称略=(編集委員)

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2022年7月31日のニュース