「スクラム」をどう伝えるか 気付いた綱引きとの共通項 運動会で試したら…

[ 2019年10月5日 08:46 ]

<日本・アイルランド>前半、スクラムでアイルランドFWの反則を誘う日本FW(撮影・久冨木 修)
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 スクラム。ラグビーを象徴するプレーにしてシーンであり、その4文字は競技の枠を飛び出し、広く世の中に認知されている。一方で8対8で行われるその攻防は、底なし沼のように奥深く、中途半端に知ろうとする者を生かしてくれない(と思う)。私も高校3年間だけラグビーに取り組んだが、ポジションはバックス。ロックに人が足りていなかった練習試合で2、3度、参加した記憶はうっすらあるが、真相、真髄には迫れなかった(当然だ)。

 超が付くスーパープレーヤーでも、バックスの選手にはスクラムのことはよく分からないと言われる。書き手の立場になっても、新聞記事の限られた行数で、読者に伝えるのは難しい(あるいは力量がない…)。どうしたらスクラムを組んだことのない、おそらく日本国民の99%以上の人に分かりやすく伝えられるか。数年前から考え、一つの答えに至った。スクラムは、綱引きに似ているのではないか、と。

 スクラムは押し、綱引きは引く。人数の多寡はともかく、8人が3層になって組むスクラムと、一本の綱の左右に人が散らばる綱引きとでは、あまりに見た目に違いがあるのは承知している。だが、ばか正直に真っ直ぐ押し合うだけでなく、「ヒットで前に出る」「アングル(角度)を付ける」「低く組む」などと選手が口にするスクラムの技術的要素が、綱引きにも当てはまるのではないか。そう考え、実践したことがある。

 ちょうど、日本―サモア戦の行われる今年と同じ、昨年10月の第一土曜日。娘の運動会の保護者競技が綱引きだった。各チームの参加人数も、たしか8、9人ほどだったと記憶している。先頭を任された私は、ただただ真っ直ぐ、力いっぱい引くだけでは不利と考え、一計を案じた。

 相手の先頭は、私とは綱の反対側に立っている(お互いに右利きだと、そうなる場合が多い)。となれば、相手にとっては体から離れていく方向によーいドンで大きな力が掛かれば、力が入りにくい状態が生まれるのではないか、と推論した。チームで示し合う時間も余裕もなかったので、「腰を落として低く引っ張りましょう」と綱引きにおけるセオリーだけを呼びかけ、1人だけ少しアングルを付けて引っ張ってみた。すると、私のやや“グレーゾーン”のスキルがどれほどの効果があったかは不明ながら、1戦目、2戦目と見事連勝。続く決勝は2戦目からの連戦となったこと、そして相手がややフライング気味に引いてきた(ように思う)こともあり、完敗。かくして、我が「ぽぴー組」保護者会は準優勝に留まったものの、胸にすとんと落ちるものがあった。

 W杯開幕前、長谷川慎スクラムコーチに「スクラムと綱引きは、似ている部分がありますよね?」と問い、僭越ながら理論をぶつける機会があった。得た回答は、「まあ、それだけではないけどね」。意訳すれば、共通項は多い、でいいだろう。

 運動会もたけなわのシーズン。綱引きでの疑似体験でスクラムを知り、今夜の大一番を楽しんでもらえたら、と思う。(阿部 令)

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2019年10月5日のニュース