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【コラム】金子達仁

野球界から学び Jリーグの活気を再び

[ 2022年7月1日 00:00 ]

6月29日<G大阪2―0広島>声援に応えるG大阪の選手ら
Photo By 共同

 サッカーは野球の敵。

 いまとなっては信じられない気もするが、かつては、そう公言して憚(はばか)らない人がこの国にはいた。

 サッカーは日本人の国民性に合わない。サッカーは日本が培ってきた秩序と文化を破壊する。当然、この国に根付くはずはない――事あるごとに野球の優越性を説き、いかにJリーグなるものに未来がないかを、本気で、かつ何の悪気もなく口にする人たちがいた。

 新しいプロスポーツの誕生が、市場を独占するのが当たり前だった野球界にとって脅威に映ったのはわかる。サッカーが好きで、なおかつ同じぐらい阪神が好きだった人間からすると複雑な思いもしたが、一定数の割合でサッカーに対するアレルギー反応が現れるのは理解できた。

 ただ、野球界が素晴らしかったのは、脅威を反感だけで片づけず、そこに教訓を見いだそうとした人たちも少なからず存在したことだった。

 なぜJリーグは熱狂的に受け入れられたのか。理由の一つに地域密着の思想を見いだした彼らは、その思想を野球界にも持ち込んだ。セ・リーグに比べると気の毒なぐらい不人気だったパ・リーグは、フランチャイズを重視し、溶け込む姿勢を前面に打ち出すことで一大飛躍を遂げた。企業名を残しつつ、しかし地元を大切にする姿勢は、言ってみれば、旧来のプロ野球とJリーグのハイブリッドだったとわたしは思う。

 その効果は、いまもはっきりと表れている。かつて、巨額の年俸を得るためには、極論すれば巨人でスターになるか、FAで巨人に移籍するしかなかったが、22年現在、球界の最高年俸を争うのはホークスの千賀でありイーグルスの田中将である。

 ちなみに、93年のJリーグ発足当時、原辰徳の年俸は1億3000万円だったとされる。あれから30年、メジャーリーグには遠く及ばないにせよ、日本プロ野球の年俸は確実に上がってきている。

 翻って、かつて世界中から羨望(せんぼう)の眼差(まなざ)しで見られていたJリーガーの収入は、5大リーグを目指すような才能からは見向きもされないレベルにまで落ち込んでしまった。

 もちろん、これには世界経済の流れや日本経済の地盤沈下など、日本のサッカー界だけではどうにもならない要素も関係している。加えて、もはや異常としかいいようのない年俸のバブル。これはもう、一国で太刀打ちできるレベルではない。

 ただ、そうはいっても日本人選手の年俸が安すぎるのも事実。明治期、日本の美術品がタダ同然の額で海外に流出した時期があったが、いまの日本サッカー界は、それにほぼ近い状態と言ってもいい。

 現状、プレミアリーグの年俸と比較するのは無謀でしかない。だが、同じ日本で、日本経済の影響を受けているはずのプロ野球が、なぜJリーグより資金面で優位にあるのかを考えてみる必要はないだろうか。かつてプロ野球が試みたように、今度はJリーグが新しいハイブリッドを考える必要があるのではないだろうか。

 収入面の話だけではない。かつて新しいスポーツだったJリーグは、観客の高齢化を言われるようになった。一方、かつておじさんのスポーツと言われたプロ野球は新しい活気に満ちている。その原因を探ることで、やるべきこと、できることも見えてくるとわたしは思う。(金子達仁氏=スポーツライター)

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