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【コラム】金子達仁

“物語”知る層の減少 熱量はどうなる

[ 2022年1月27日 12:00 ]

 さあ、いよいよ今年最初のW杯最終予選!……のはずなのだが、テレビを見ても、新聞を開いても、ネットを眺めても、なぜかいつもに比べて熱量が低めな気がする。日本代表が置かれている立場、状況を考えれば、もっとピリピリした空気、いわゆる決戦ムードが立ち込めていてもおかしくないのに。

 似たような違和感は、大学でマーケティングを教えているヨメも感じたらしい。

 「明日、W杯予選だよね?」

 「そうだけど、何で」

 「前だったら数日前から学生が盛り上がってたから、ああ、もうすぐW杯予選なんだってわかったんだけど、今回はそれが全然ないから」

 もちろん、熱を感じる、感じないは主観の問題。「大丈夫、自分の周りは盛り上がってる!」という方もいらっしゃるとは思う。それでも、たとえごく一部であったにせよ、以前はあった盛り上がりを感じなくなった人間がいるのは、喜ばしいことではない。

 不人気スポーツの象徴のような存在だったサッカーがこの国で一定の注目度を集めるようになったのは、いわゆる“にわか”が大量に参入してきたからだった。

 では、それまでサッカーに興味のなかった人が関心をもってくれるきっかけは何だったか。活字メディアの人間としてはいささか口惜しい気もするが、間違いなくテレビだった。最低でも4年に一度は記録された爆発的な視聴率が、そのたびに新たな層をサッカーの世界に引き込んできた。

 ご存じの通り、今回のW杯最終予選は、ホームでの試合のみ、地上波で放送される。アウェーの試合はDAZNで見るしかない。W杯予選の半分を無料では視聴できない世界でも希有(けう)な国に、日本はなってしまった。

 これはつまり、新たな層を呼び込む機会の半分が失われたことを意味する。もしドーハの悲劇が、ジョホールバルの奇跡が有料放送でしか視聴できない環境だったとしたら……そう考えるとゾッとする。

 幸い、“やるスポーツ”としてのサッカーは依然として子供たちの高い人気を得ている。幼稚園や小学校のお母さんたちにとっても、サッカースクールは子供を通わせる習い事の有力な選択肢の一つであり続けている。

 ただ、やるスポーツとしてのサッカーの人気は、「キャプテン翼」の時代から高かった。それでも日本リーグや代表のスタンドには閑古鳥が鳴いていた。つまり、やるスポーツとしての人気は、見るスポーツとしての人気に必ずしも直結しているわけではない。そして、見る人が増えなければ、選手たちが受け取る報酬も増えてはいかない――プロ野球のように、企業のバックアップでもない限り。

 今回、DAZNの値上げが発表されたが、コアな層は迷わず継続するだろうし、ライトな層にとっては、そもそも値上げ前の価格ですらハードルは高かった。ただ、4年前に比べると確実に“新規ライト層”が減ったことは、後になってボディーブローのように効いてくる可能性がある。コアのファンも、最初はライトなファンだったはずだからだ。

 仮に日本代表が無事に本大会出場を獲得したとする。気になるのは、予選での物語を知る層の減少である。それでもこの国は4年前と変わらない盛り上がりを見せるのか、はたまた――。
 ま、すべては予選を勝ち抜いてからの話だが。(金子達仁氏=スポーツライター)

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