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【コラム】金子達仁

5点取って緩んでいて、目標に届くのか

[ 2019年12月16日 16:30 ]

 絶賛しようと思えばできるし、酷評することもできる。要は、判断の基準をどこに置くか、である。

 過去の日本や先の中国戦、あるいはすでに香港と戦っていた韓国と比較するのであれば、文句のつけようのない圧勝だった。

 どうにもパっとしなかった中国戦との大きな違いは、一つは相馬、菅という両サイドアタッカーの積極性であり、もう一つはグラウンドを俯瞰(ふかん)して見ることのできる大島の存在だった。

 両サイド、特に右サイドの相馬が再三にわたってチャレンジをしかけたことで、香港はゴール前でカメになりきれなかった。薄くなったガードを突き破ったのは、菅の凄(すざ)まじいボレー。これで、「拮抗(きっこう)した状態を長く持続して日本の焦りを誘う」という香港の目論見(もくろみ)は消えた。勝負ということに関しては、この時点でほぼ決したといっていい。

 それでも、この日のメンバーに大島が加わっていなかったら、香港の健闘はもうしばらく続いたかもしれない。というのも、リズムを変えるようなパスや、美味(おい)しそうなスペースやエリアにボールを運ぼうとする動きは、ほとんどが大島を起点としていたからである。

 両サイドがチャンスを量産し、中盤からもいいパスが出てくる。おまけに相手の寄せの質や速さがそれほどでもないのだから、FW陣からするとニワトリ小屋に飛び込んだ狼のようなものだった。韓国が2点しか取れなかった相手から5ゴールも奪ったのだから、十分に評価できる――。

 過去の日本や、韓国が比較の対象なのであれば。

 コロンビア戦の惨敗のあと、森保監督は選手たちに「五輪で優勝したいのは俺だけなのか?」といったゲキを飛ばしたと聞く。確かに、あれは五輪で優勝しようと考えている選手たちがやる戦いではなかった。

 だとしたら、香港相手の5―0は、五輪で優勝しようと考えるチームにとって合格点といえるのだろうか。

 まだ出場国は確定していないが、たとえばブラジルやアルゼンチン、スペインやドイツ、フランスといった、おそらくは本大会でも優勝候補にあげられる国の選手が、ファンが、メディアが、香港に5―0で勝ったことを絶賛するだろうか。目標達成に向けて近づいたことを実感できる勝利だと、手放しで喜ぶだろうか。

 五輪で優勝を狙おうというのは、日本サッカーが一度たりとも掲げたことのない大目標である。いままで掲げたことのない目標を達成しようとするのであれば、アジアでの勝利をいままでと同じ感覚で捉えてはいけないのではないか。

 ハットトリックの小川は素晴らしかった。だが、C・ロナウドであればWハットトリックをやっていた――これからは、そうした視線で選手を見なければいけないのではないか。

 そして何より、5点目をとってからの明らかに弛緩(しかん)してしまった戦いぶりは、厳しく指弾されてしかるべきなのではないか。

 選手も、ファンも、メディアも、すべてが変わらなければ目標の達成はおぼつかない。目指す目標は、それほどに大きい。だから、変わらなくては。自戒の念もこめて、そう思う。(金子達仁氏=スポーツライター)

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