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【コラム】金子達仁

「トライアウト」気付づいている選手がどれだけいるか

[ 2019年12月11日 17:00 ]

 この試合、一応はインターナショナルAマッチであるらしい。海外でプレーしている選手は参加できないし、スタンドの入りから察するに、韓国の人たちは自国の3部リーグよりも関心を持っていないようだった。それでも、建前上はA代表の試合である以上、監督は「勝利を目指す」といわなければならないし、同じことは選手についてもいえる。

 建前の上では。

 だから、選手の立場からすると、物凄く難しい試合だったとは思う。Jリーグの最終節からわずか3日後の試合ということもあり、コンディションの面での苦労もあっただろう。それでも、率直にいって残念な試合だった。

 2点しか取れなかったから、でも最後に1点を返されたから、でもない。

 決して少なくない割合の選手が、建前を鵜呑(うの)みにし、この試合の本当の意味を見失っているように見えたから、である。

 真剣勝負の体はしているものの、日本にとってのこの試合、この大会は「トライアウト」だとわたしは思う。新天地での契約を求める選手たちによる、数少ない椅子を奪い合うサバイバル。その、素晴らしくゴージャスなバージョン。

 選手や大会に失礼な表現だということは承知している。けれども、この大会で活躍した選手に、来年のW杯予選や東京五輪での主軸としての立場が与えられるだろうか。この大会で活躍すれば、中島や南野、久保を押しのけて先発する機会をつかめるだろうか。

 そうは思えない。

 無意味、というわけではない。いまよりも立場はよくなるはずだ。だが、主役にはなれない。主役になるためには、もっと大きな、もっとヒリつく状況で結果を残さなければならない。

 残念ながら、この試合をトライアウトだと考えて試合に臨んでいた選手は、わたしの見る限りほとんどいなかった。はっきりと覚悟を漂わせていたのは、交代で入ってきた田川だけだった。あとの選手は、ほとんどが普段どおりか、普段よりも安全に重心を置いた形でプレーしていた。

 バックパスの多さが、それを象徴していた。

 これが掛け値なしの真剣勝負だというのであれば、リスクを負うプレーは慎みたいという気持ちはよくわかる。守備の選手に関しては仕方がないところもある。だが、チームの勝敗以前に、自分が生きるか死ぬかのトライアウトで、中盤より前の選手がバックパスを連発したところで、それが何になるというのだろう。シュートを打たずに味方へのパスを選択して、どうやって契約を勝ち取ろうというのだろう。

 せめてもの救いは、2―0になったあたりから、選手たちの中からわずかながらも“自分の爪痕を残そう”という動きが見え始めたことだった。正直、絶望的な気分になりかけていたが、辛うじて、香港戦への期待はつながった。

 この大会での勝利は、ステップアップを意味しない。称賛されることもない。この大会を最後に代表から遠ざかる選手も出てくるだろう。そのことに気付いている選手がどれだけいるか。繰り返すが、この大会は代表入りをかけたトライアウトなのである。(金子達仁氏=スポーツライター)

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