【コラム】金子達仁

経験か、可能性か、悩める守護神選び

[ 2018年6月24日 09:38 ]

コスタリカ代表のGKケイロル・ナバス
Photo By AP

 万年補欠GKだったわたしにも、経験がある。どういうわけか、どれほどシュートを打たれても、決められる気がしない日。「やられた!」と諦めかけたシュートをなぜかバーやポストが防いでくれる日。そしてどういうわけか、相手の強烈なシュートが自分の真っ正面にばかり飛んでくる日。人生に何度か、そんな不思議な日がGKにはある。

 コスタリカのGKナバスにとっては、6月22日がその日だった。雨あられと降り注ぐブラジルのシュートに対し、彼は見えないバリアーを張った。たかがコスタリカ。そんな思いを捨てきれなかったであろうブラジルは、残り時間が失われていくに連れ、焦りどころか恐怖の色をにじませるようになっていた。

 ブラジルにとって史上最悪の、コスタリカにとっては史上最高の引き分けまでは、あと数分だった。

 だが、土壇場の土壇場で、結界は破られた。王国の凄(すさ)まじいまでの意地が、意志の力が、わずかにナバスの魔力を上回ったとしか言いようのない、常識的な流れでは生まれ得ない決勝弾だった。

 試合後、ネイマールは泣いていた。たかが1次リーグ、たかがコスタリカ相手の試合に勝っただけで、ブラジルのエースが涙を流していた。この試合の展開がいかに特殊なものだったか、この勝利がどれほどの難産だったかを如実に物語る涙だった。

 改めて思い知らされた。GKには、神に近い存在になる日がある。

 歴史を振り返ってみれば、黄金のカップを掲げた国の最後尾には、いつも優れたGKがいた。前回大会はノイアー、その前はカシージャス、ブッフォン……GKが弱点と言われながら優勝することができたのは、わたしの知る限り、70年のブラジルしかない。

 W杯は、魔力を持たない守護神には冷ややかなのだ。

 さらにいうなら、W杯は初戦でミスを犯したGKに挽回の機会を与えない大会でもある。

 90年W杯イタリア大会、開幕戦でオマン・ビイクの平凡な(ジャンプ力は異常だったが)ヘディングシュートを捕り損ねてしまったアルゼンチンのプンピードは、続く第2戦の試合途中に指を骨折し、そのまま大会を去った。

 わたしの知る限り、初戦で大きなミスを犯し、大会期間中に挽回することのできたGKは、いない。クリロナのシュートを止められなかったスペインのデヘアや、相手にラストパスをプレゼントしてしまったアルゼンチンのカバジェロを待ち受けているのは、だから、茨(いばら)の道である。

 だが、初戦で5点を奪われたGKを第2戦で代えたサウジは、GKの判断ミスで引導を渡された。ミスを犯したのが経験ある守護神だった場合、監督の判断はより難しいものとなる。

 前日付のスポニチで城彰二さんがセネガル戦に向け、GKを代える必要性を強く訴えていた。わたしも同感……なのだが、この大切な試合にW杯出場経験のないGKを使うことを考えると、いささか肝もすくむ。

 川島か、東口か、それとも中村か。わたしならば、川口能活を彷彿(ほうふつ)とさせる男を選ぶが、果たして。(金子達仁氏=スポーツライター)

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