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【コラム】金子達仁

日米は開拓された。次なる標的は中印

[ 2017年1月12日 06:00 ]

 “エル・マタドール(闘牛士)”ことマリオ・ケンペスが紙吹雪の舞うスタジアムを疾走した78年、W杯本大会は16カ国によって争われていた。4年後のスペイン大会が24カ国によって争われることになるとのアナウンスが流れたときの反応は、今回、世界中の識者やファンが見せているものとほぼ同じといっていい。

 賛同と反発が相半ばであることも、それぞれの理由、根拠についても。

 そもそも、なぜFIFAはW杯本大会出場国を拡大しようと考えたのか。最初のきっかけは、代表チームの実力は遠く及ばなくとも、票のうえでは同じ力を持っている第三世界の支持を取り付けようとしたブラジル人会長の目論見にあった。大会のレベル低下を懸念する声をよそに、だが、82年のスペイン大会は最高の盛り上がりを見せる。アベランジェの狙いは見事にあたり、その立場は盤石なものとなった。

 次にFIFAが考えたのは新しいマーケットの開拓だった。当時、世界のGDP1位と2位の国は、全くといっていいほどサッカーに関心を示していなかった。彼らの興味とカネを惹(ひ)きつけるためには、W杯に出場させるしかない。そのために彼らは94年大会を米国に、その8年後の大会を極東へ持っていくことにした。W杯出場経験のなかった日本に経験を積ませるためなのか、98年大会からは出場国をさらに32に増やした。結果、サッカー不毛の地と言われ続けた米国と日本は当たり前のようにW杯に熱狂するようになった。

 となれば、今回の規模拡張の狙いは一目瞭然である。

 「球迷」と呼ばれる熱狂的なファンの存在が社会問題になるほどでありながら、02年大会以降、中国はW杯への切符を手にできていない。今回も、最終予選には進出したものの、5試合戦って得た勝ち点はわずか「2」である。世界2位となった経済大国がW杯にたどりつく可能性は、今回もほぼゼロである。

 中国だけではない。アジアには他にも人口が億を優に超える大国が存在する。インドしかり。インドネシアしかり。サッカー熱がありながら、しかしW杯には届かない国への市場拡大――それが今回の拡張案の根底にあるものとわたしは見る。

 さて、それが日本にとって吉と出るか凶と出るか。

 本大会の枠が24のままだったら、日本はW杯フランス大会に行けなかったかもしれない。ただ、何にせよ行けてしまったことで、日本サッカーは一気に飛躍した。同じことが中国やインドに起こらないと誰に言えよう。

 だが、長い目で見れば、W杯の凄みを知るライバルが増えることで、アジアのレベルはさらに高まることが予想される。いまのところ、アジアでの経験はほとんど本大会では役に立たないものとされているが、それも過去の話となるかもしれない。

 W杯に出場することを考えれば凶、優勝することを考えれば吉――。それが、決定を聞いた率直な印象である。(金子達仁氏=スポーツライター)

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